なぜこのタイミングで出版社を立ち上げたのか――南原竜樹さんの考え方遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(5/5 ページ)

» 2012年03月21日 15時37分 公開
[遠藤諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研
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 南原氏の出版社の重要なコンセプトは、「出版のハードルを3段くらい下げる」ことだという。世の中には、本を出せる、出すべき人がたくさんいる。これまで本が生まれなかった条件をひとつずつつぶしていくことで、そこに新しい需要と供給のマーケットが創出する。「身近に本を出す人が増えれば、おのずと本が話題になることも増えて全体が盛り上がる」という発想も興味深い。

 実は、南原氏以外にも、いま出版に参入する人がいないわけではない。出版業界誌『新文化』のK氏から聞いて「おーっ」と思ったのは、お茶の水のレコード店「ディスクユニオン」が、出版事業に参入したそうだ。レコード販売から、レーベルを立ち上げ、雑誌を作り、本も用意してあげたら自社の顧客の満足度は上がるだろう。JAGAT(日本印刷技術協会)の中部地区のセミナーでご一緒させていただいた、大阪の株式会社シー・レップの北田浩之社長の話にも教えられることが多かった。同社は、子供服の専門出版社を買収し、通販サイトを立ち上げて売上げを伸ばしている。

 しかし、南原氏のATパブリケーションは、より直球で出版というものに取り組もうとしているのである。世の中には、本の未来についての議論があふれている。ネット書店のAmazonは当然としても、グーグル、アップルといったネット時代の旗手たちが真剣に取り組んできていて、出版という世界自体もメディア全体の大きな動きの中にあるともいえる。ATパブリケーションが成功するのかどうかはまだ評価できる段階ではないとして、南原竜樹氏の出版論、いかがだろう? 【遠藤諭、アスキー総合研究所】

遠藤 諭(えんどう さとし)

ソーシャルネイティブの時代 『ソーシャルネイティブの時代』アスキー新書および電子書籍版

 1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書および電子書籍版)、『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。

 コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。


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