「これで風化しなければいいが……」――1年後の被災地を訪ねて東日本大震災ルポ・被災地を歩く(1/3 ページ)

» 2012年03月21日 08時00分 公開
[渋井哲也,Business Media 誠]

渋井哲也(しぶい・てつや)氏のプロフィール

book 『3.11 絆のメッセージ』

 1969年、栃木県生まれ。フリーライター、ノンフィクション作家。主な取材領域は、生きづらさ、自傷、自殺、援助交際、家出、インターネット・コミュニケーション、少年事件、ネット犯罪など。メール( hampen1017@gmail.com )を通じての相談も受け付けている。

 著書に『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)、『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎)、『解決!学校クレーム』(河出書房新社)、『学校裏サイト 進化するネットいじめ』(晋遊舎)、『明日、自殺しませんか?』(幻冬舎)、『若者たちはなぜ自殺するのか?』(長崎出版)など。メールマガジン 「週刊 石のスープ」を刊行中。

 5月、被災地の人々の生の声を集めた『3.11 絆のメッセージ』(被災地復興支援プロジェクト)を出版。共著に『風化する光と影』がある。


 東日本大震災から1年が経った。私はこの1年で計180日ほど、東北や茨城、千葉、長野の被災地を取材していたことになる。いずれの被災地、被災者、災害ボランティアにも思い入れがある。そのため、震災から1年目の3月11日前後をどこで過ごすのか迷い、その中でもいくつかの被災地に絞って訪れざるを得なかった。

 3月11日前後の取材スケジュールは結局、3月8日は福島県の警戒区域、3月9日は宮城県石巻市の大川、3月10日は宮城県石巻市雄勝、気仙沼市、岩手県陸前高田市、3月11〜12日は岩手県釜石市、3月13日は福島県相馬市、南相馬市に決めた。

防災センターの悲劇

 震災からちょうど1年後の3月11日14時46分、私は岩手県釜石市鵜住居の「鵜住居地区防災センター」にいた。震災後、最初にこの地域を訪れたのは4月7日。この時期、ほかの被災地では、緊張感が徐々に解かれ始めている印象があったのだが、鵜住居はまだ緊迫感があり、震災発生直後に被災地を回った時の感覚があったことを思い出す。

震災後の鵜住居地区防災センター付近(2011年4月7日)

 鵜住居ではこの防災センターでの悲劇が、1つの焦点となっている。ここは津波の一時避難所ではなく、災害があったときに避難生活をする拠点避難所なのだが、津波警報が発令された時、多くの人が避難。津波が押し寄せたことによって、防災センター内および周辺で約70人の遺体が発見されることとなった。

鵜住居地区防災センターの“避難室”で献花する人たち

 一時避難所ではないのだが、それまで防災センターは津波の避難訓練で使われていた。避難訓練の参加率を上げることを目的に、避難訓練の上では“避難所”になっていたからだ。

 釜石市は防災センターが津波の避難所ではないことを広報しているのだが、震災2日前の前震で発令された津波注意報の時も、防災センターに逃げた人がいた。過去の避難訓練などによって、住民が誤って学習してしまったのではないかと思う。その防災センターの悲劇をきちんと取材しようと思ったことが、私が何度も通い続けるきっかけとなっている。

 この日も、多くの関係者が訪れていた。

 津波にのまれながらも屋上に逃げ、ヘリで救出された男性がいた。しかし、一緒に避難した妻は津波にのまれてしまったという。その男性の家族が来ていたので話を聞くと、母親は隣の大槌町に住んでいたため、当初、状況をつかめないでいたそうだ。

 「息子は嫁と一緒に避難したのに助けられなかった。そのため、悔やんでいます。今でも、私が電話をしても出てくれません」

 生き残った者の苦しみは今でも続いている。

防災センター近くに住んでいた場所に献花する親族

 この防災センターの悲劇は、行政もマスメディアも大きな関心を寄せている。そのため、生存者が話をすることもあるのだが、ある生存者の女性が内部の構造を見た後、足早に立ち去ったことがあった。その際、「内部(の構造)が記憶と違う」と言い残したという。

 神奈川県から訪れた沖由希恵さん(23)は、近くに住んでいた祖母が防災センターに避難して、亡くなったと言う。この日は遺影を持ちながら、センター周辺と内部を歩いていた。

 「おばあちゃんは楽しい人だった。亡くなったと聞いた時は信じられなかった。今でも信じられません。会える気がしてしまう」

大好きだったおばあさんが亡くなったため、親族とともに訪れた沖さん

 地震発生時刻になると、訪れていた人たちが黙とうした。家族や親族を亡くした人、多くの友人知人を亡くした人が集まり、静かに手を合わせた。

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