アップルの新入社員が、初出社日に“学ぶ”ことインサイド・アップル(1)(3/4 ページ)

» 2012年03月15日 08時00分 公開
[アダム・ラシンスキー,Business Media 誠]
インサイド・アップル』(早川書房)

 新入社員については、どの建物で働くのかを知らせる前に、すでに秘密保持が始まっている。複数回の厳しい面接を通過したとしても、彼らの多くは「偽の地位」を与えられ、正式に入社するまで職務を教えられない。新規採用者は歓迎されるが、まだ教育がすんでいないので、職務などの慎重に扱うべき情報をすぐに知らされるとはかぎらないのだ。

 「何をするのか、絶対に教えてもらえませんでした」。大学院からアップルに入社したエンジニアのひとりは言った。「iPodに関連することだとは分かっていたけれど、どんな仕事なのかは分からなかった」

 分かっていても、言わない社員もいる。新入社員は出社初日の新人オリエンテーションでそのことに気づく。

 「どこでもやるように、みんなで坐ってひとりずつ自分の仕事を説明しはじめる」。iPhone初期のマーケティングを担当した幹部のボブ・ボーチャーズは思い出す。「でも、半数の人間は説明できない。秘密プロジェクトに取り組んでいるからです」

 新人は勤務初日に、それまで働いたこともないような会社に加わったことを思い知らされる。アップルは外の世界では尊敬されている。しかし、なかに入るとカルト的で、新参者に明かされる情報はかぎられている。新人は必ず半日のオリエンテーションを受けるが、それは決まって月曜だ(月曜が休日でないかぎり)。内容の多くはほかの大企業と同じで、「アップルにようこそ」と書かれたステッカー、人事調査票などのほか、その年の数字の入った「○年クラス」というTシャツもある。アップルは、さほど多くない買収企業の社員に、アップル・ファミリーの構成員になったことをいち早くわからせる。新興企業クアトロ・ワイヤレスの買収でアップルに加わり、のちにiAdモバイル広告のパートナーシップと提携の責任者になったラース・オルブライトは、買収契約の締結直後に新品のiMacが大量に届けられたときの喜びを憶えている。

 「みんなすぐに特別な何かの一部になったと感じたよ」

 月曜のオリエンテーションでは、もうひとつ別のもてなしがある。

 「アップルで無料の昼食を食べられるのは一度だけ、それが出社初日なんだ」。別の元社員は言った。

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