中国が軍備拡張、日本にシーレーンの危機管理シナリオはあるか?藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

» 2012年03月05日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
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日本も危機管理のシナリオを

 こうした中国海軍の「質的変化」にとって、最も警戒すべき相手が米海軍であることは言うまでもない。このため中国人民解放軍は米海軍機動部隊を寄せ付けないために、弾道対艦ミサイル(東風21D)を開発した。射程が3000キロとされ、「これを防ぐ有効な手段が米軍にない」と軍関係者は言う。そうなると空母は東シナ海に入ることが難しくなり、大幅に米海軍の能力が制限されてしまう。

 日本にとっては、米海軍の行動が制限されることも大きな問題だし、南シナ海の自由航行が阻害されるかもしれないことも大問題である。日本に入ってくる原油の約8割が南シナ海を通過する。もちろん原油だけではない。そのほかの資源もかなりの量が南シナ海を通って運ばれてくる。

 ある米軍関係者は、「だから戦前の日本軍は南方へ進出した。その状況は今でも変わらないのに、南シナ海への日本のコミットは弱い」と言う。むろん海上自衛隊そのものが南シナ海に「進出」するということではなく、日本が南シナ海の周辺諸国とどのような関係を結び、中国をけん制するのかということだ(そうした観点から見た時、沖縄の普天間基地移設問題で日米間をギクシャクさせた鳩山元首相の責任はあまりにも重い)。

 李肇星報道官がどう言いつくろうと、中国の軍事予算の膨張が周辺諸国に緊張をもたらしていることは間違いない。第二次大戦で敗戦国になって以来、とかく我々は安全保障問題から目をそむけがちだ。目をそむけることで経済的繁栄を謳歌してきたことも事実である。

 しかし東アジアから東南アジアにかけての軍事バランスが大きく変化することが、日本にどのような影響をもたらすのかということを真剣に見つめる必要がある。変化の過程では必ず緊張が生まれる。そして場合によっては、当事者が意図しない力が働いて、緊張がやがて暴発する可能性もある。

 緊張状態が生まれた時、日本がどうするのか。危機管理のシナリオを作っておかないと、いざという時に状況に対応するだけで手一杯になってしまうかもしれない。福島第一原発のオフサイトセンターは、放射能を防ぐことができず、また停電時の対策もなかったために、何の役にも立たなかった。「最悪のシナリオはありえない」ということが何の根拠もない楽観論だったことが今さらながら身にしみる。まさか一国の将来がかかる安全保障で根拠のない楽観論に身を任せているなんてことはないと思いたいが、どうだろうか。

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