なぜJR東日本は車両部門を強化しているのか杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)

» 2012年03月02日 19時25分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

JR東日本の理想と信念

 JR東日本と東急車輌製造は親密な関係にあった。だからJR東日本は東急車輌製造を救った。そう考えたくなるけれど、そればかりではなかった。なぜJR東日本は車両部門を強化したいか。その理由は、2011年9月に開催された「鉄道技術展」において、JR東日本の石田義雄取締役副会長の基調講演で明らかになった。

 1987年に日本で国鉄がJRへと分割民営化された頃、欧州でも国鉄改革の気運が起きた。理由は共通しており、国営形態の不透明性、赤字の放置、労使関係の悪化などであった。このとき、日本と欧州では民営化に決定的な違いが起きた。

 日本は国鉄を地域別に分割した。しかし、欧州では上下分離を実施した。鉄道施設は国または自治体が保有し、列車の運営は民間が行う方式だ。高速道路とバス、飛行場と航空会社、港と船会社のような関係を、鉄道と列車に求めた。

 これは理にかなっているように見えるが、実際は鉄道施設側のコストダウンの度が過ぎたために、施設の老朽化と、それに伴う事故が多発した。欧州の鉄道関係者には、路線のすべてに責任を負うJR方式を評価する動きもあるという。

 欧州では、国鉄解体、上下分離の結果として、国鉄技術者の解雇、流出が起きた。彼らを引き受けた会社がボンバルディア、アルストム、シーメンスなどだった。各国の国鉄にぶら下がっていた鉄道車両部品メーカーもM&Aが進んだ。この結果、鉄道車両製造の主導権が列車を運営する鉄道会社から車両メーカーへと移転した。

 すると、鉄道車両は従来のオーダーメイドからレディメイド型になっていく。標準化、互換性を進めてコストは下がった。しかし、コストを重視して共通化しすぎたため、お客さま、つまり乗客と車両を制作する立場に隔たりができてしまった。乗客無視の鉄道車両製造は良くない。車両はお客さまとの接点であり、鉄道会社が責任を持つべきだ。これがJR東日本の考え方だという。

 鉄道車両のイニシアチプは列車運行会社が持つ。海外大手車両メーカーとは決定的に違う考え方に「日本の車両製造が世界へ進出できる商機がある」と、JR東日本は判断した。日本では飽和しつつある鉄道車両製造は、海外に勝機がある。ならば体制を強化して本気で取り組もう。それが東急車輌製造を引き受けた理由だった。

 日立製作所や川崎重工は海外大手と似た手法、いわば“正攻法”で戦おうとしている。JR東日本も同じでは共倒れになるかもしれない。しかし、JR東日本の車両製造のメリットは、顧客となる鉄道運行会社、そしてその乗客と共感できることにある。

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