なぜJR東日本は車両部門を強化しているのか杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2012年03月02日 19時25分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 一方、同日の東急車輌製造側のプレスリリース「会社分割(吸収分割)および事業譲渡に関するお知らせ」をまとめると、「需要の激減による市場縮小」「一層の競争激化」「環境は極めて厳しい状況」などと寂しい言葉が並ぶ。筆者は生まれてから思春期までを東急沿線で過ごし、東急車輌製造が作った銀色の電車に揺られて育っただけに、この言葉は悲しいし悔しい。その反面、JR東日本さん、東急車輌製造の技術と人々を救ってくれてありがとう、という気持ちも起こる。

 東急車輌製造は銀色電車=ステンレスカーの始祖であった。日本で初めてステンレス車体を採用した東急5200系を製造し、米国バッド社と提携したオールステンレス車体の東急7000系を作った。その技術と生産力で関東の大手私鉄や国鉄、JRへ向けた多数の車両を手掛けた。いまも旅先で「東急車輌」の銘板を見るたびに、なぜか筆者も得意な気持ちになる。

横浜製作所に保存されている東急5200系。日本で初めて車体外側にステンレスを採用した。写真の左端は1月に設置された「ステンレス車両発祥の地」の記念碑
東急7000系は日本初のオールステンレス製車体を採用した。産業考古学会の推薦産業遺産

 東急車輌製造はJR東日本のお召し列車「E655系」を製造するなど、名誉ある仕事を担う一方で、業績は芳しくなかったらしい。最大のライバルは、ステンレスカーに対抗して登場したアルミ製車体だ。特に日立製作所が開発した「A-Train」は秀逸だ。

 巨大な押し出し成形機で補強付き中空壁の車体を丸ごと作ってしまう。部品点数が大幅に下がりコストも下がる。客室の張り出しも少ない。この「A-Train」を採用する鉄道会社が増えている。

 これに対抗する意味もあるのか、2000年に東急車輌製造とJR東日本が共同でE231系を開発した。省エネルギーと生産コスト、運行コストの低減、運転系統や旅客案内設備などへの新技術の導入が目玉で、両者はこれを次世代標準車両とし、通勤から長距離まで、わずかな設計変更で対応できるように設計した。アルミ押し出し一体成形の「A-Train」に対して、モジュール組み立て方式のメリットを押し立てた。

 その後、JR東日本の車両はE231系をベースに作られているし、他の私鉄も採用している。JR東日本と東急車輌製造のプロジェクトは成功を収めた。これもJR東日本が東急車輌製造を譲受した一因になっているだろう。

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