ワタミ渡邊会長と田中防衛相にみる「おわびコミュニケーション能力」(1/2 ページ)

» 2012年02月29日 08時00分 公開
[増沢隆太,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:増沢隆太(ますざわ・りゅうた)

RMロンドンパートナーズ(株式会社RML慶文堂)代表取締役。東京工業大学特任教授、コミュニケーション戦略家。人事コンサルタント兼大学キャリア教官兼心理カウンセラーで、東工大大学院では「コミュニケーション演習」の授業を行っているほか、企業では人材にも「戦略性」を重視する功利主義的アクティビティを提唱している。


 「近ごろの若いモンは」と、いきなり年寄説教っぽく始めますが、おわびが苦手で嫌いだと言われます。実はこれ、いわゆる「ゆとり世代」だけでなく、20代や30代、いや50代でもいくらでもいますね。つまり若いモンだけでなく、年齢とは関係なしにおわびできない人が圧倒的に多数だと言えます。誰でも嫌な言葉を浴びせられたり怒鳴られるのは避けたいものです。

 しかし、トラブルやクレームはビジネスの宝庫とも言われます。私は以前いた会社で7年近く在籍した中、ずっとクレーム担当をしてきました。この経験からカウンセリングを学び、今や職業にできるまでになりました。コミュニケーションの要諦を自分なりにつかみ、大学の先生にもなれました。おわびを戦略的にできれば、かなり高いコミュニケーション能力が身に付くと言えると思います。

 都知事候補にもなった渡邉美樹会長のワタミでは、2008年に入社2カ月の新入社員が自殺しました。それが労災かどうかを遺族が争っていた中、長時間労働によるストレスが原因だったとして、神奈川労働者災害補償保険審査官が労災適用を認めたのです。それに関し、渡邉会長がTwitterで「労務管理できていなかったとの認識はありません。ただ、彼女の死に対しては、限りなく残念に思っています」とツイートしたことで一気に炎上しました。燃え盛るネット炎上では「ワタミは天地神妙に誓ってブラック企業ではありません」とした渡辺会長の過去のツイートが引用されたりしました。

渡邊会長のツイート

 残念ながら炎上対策としても、コーポレートコミュニケーション戦略としても、ワタミグループは完全に間違っていると思います。実はこれはインテリが陥りがちなコミュニケーションギャップ、「正否」で論争してしまう現象なのです。

 ネット炎上は理性で収まるものではありません。理性的な人同士でしかコミュニケーションしなくて良いのであれば楽ですが、そんなことは世の中であり得ません。理不尽でバカで理屈が理解できず、偏見と差別と嫉妬と、人間の邪悪な感情をすべて巻き込んで起こるのが現実のコミュニケーションです。ネット炎上は「匿名性」がそれを加速させているだけです。「人間の本性は悪」なのだと私は思います。

 故梶原一騎氏の一連の著作で『巨人の星』や『あしたのジョー』などの青春スポ根ものにはまったく関心のない私ですが、ドロドロの狂気3部作『人間兇器』『カラテ地獄変』『ボディガード牙』は大好きです。梶原狂気作に貫かれた「人間の本性悪なり」は、梶原一騎氏の作品から私が学んだ人生訓です。

 ネット炎上に打てる手は静観しかありません。何を言おうが後の祭り。少なくとも渡邉会長の、自己弁護としか取られない「労務管理できていなかったとの認識はありません」のような発言は、この結果を呼び込むのが必然だと覚悟をしてするべきでしょう。そうした対応ができずに会長に危険ツイートさせてしまったワタミは、広報戦略、コーポレートブランド戦略が欠けていると言わざるを得ません。

 小説『青年社長』から続く渡邉会長のさわやか路線は、実は嫌いではありません。しかしコーポレートコミュニケーション、コーポレートブランディングは「晴れの日」ばかりではないのです。こうした炎上のようなどしゃ降りでも会社をやめるわけにはいかないのです。さわやか路線はここに弱みがあります。

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