JR東日本は三陸から“名誉ある撤退”を杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)

» 2012年02月24日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

なぜ鉄道が必要か

 メリットの多そうなBRT案だが、地元はなぜ鉄道にこだわるのだろうか。報道をまとめると「隣接する第三セクターの三陸鉄道が鉄道で復旧する」「観光資源として必要」「三陸沿岸と仙台が鉄道でつながる」「路線廃止が容易にできてしまう」などである。ここに「バスでは定時運行に不安」を入れたいところだが、この地域はもともと道路の交通量も少なく、その心配はあまりないらしい。

 要するに、三陸鉄道の北リアス線と南リアス線が孤立してしまい経営が不安定になる。遠距離から鉄道で来る観光客の足がなくなる。この2点に集約されそうだ。しかし、鉄道好きの筆者からみても、この理由は弱い。宮古、釜石、気仙沼には東京から夜行バスもあるし、三陸地域には東北新幹線からすでに復旧した路線を使ってアクセスできる。趣味的には、観光シーズンに仙台〜八戸を三陸鉄道経由で結ぶ「リアス・シーライナー」という快速列車に乗ってみたかったが、この列車の直通客は三陸各地の駅で降りてお金を使ってくれないので、地元のメリットはさほど大きくなさそうだ。

 「三陸に鉄道を、仙台につながる鉄道を」――。これは明治の鉄道発達時代から地元の悲願だったという。そして今は「とにかく元通りにしてほしいのだ」という切なる願いともいえる。でも、国道の整備やモータリゼーションが発達したいま、それは感情論でしかない。いや、感情、思いこそが復興の力だという気持ちは分かるし、大切だと思う。それは、神奈川県根岸駅に並んだ燃料輸送貨車に対して、私たちが強く抱いた復興への願いに通じる。鉄道も道路も「絆」である。太いほうがいい。多いほうがいい。

旅客輸送だけじゃダメだ JR貨物を巻き込め

 筆者がこの報道で不思議に感じる点は「なぜ、この人たちは旅客輸送だけで議論するのだろうか」である。そもそも鉄道とは何か。歴史を振り返れば、それは貨物輸送だった。船舶輸送から鉄道への、物資のモーダルシフトだった。安全に、大量に、全国各地へ輸送できる。船より速く、荷車より大量で安全に。これこそが鉄道のメリットだ。

 そして今、三陸には運ぶべき貨物がたくさんあるではないか。被災地に積み上げられた「がれき」の山。環境省によると、岩手県に約450万トン、宮城県に1570万トン、福島県に228万トン。福島は県内で処理せざるを得ないという事情がありそうだが、ここではあえて放射能の話題は避けておく。

 これらのがれきは被災地だけでは処理しきれない。東京、山形、青森などで受け入れが始まり、静岡県島田市でも受け入れ実験が始まった。都道府県レベルでは、埼玉、神奈川、京都、大阪、高知でも受け入れを表明し準備が進んでいるという。

 これだけのがれき輸送を、すべてトラックやダンプカーでやれというのか。岩手県の約450万トンは4トン積みトラックで延べ100万台以上も必要だ。これをすべて、三陸の国道で運べるのか。東北自動車道で運べるのか。しかし、鉄道ならスムーズではないか。JR貨物にとっては宝の山かもしれない。ダジャレを言っては不謹慎だけど「がれきも山の賑わい」であろう。

 気仙沼線、山田線、大船渡線を整備すれば、宮古から盛岡経由と気仙沼経由の2つの輸送ルートができる。大量の貨物を安全に、スピーディに輸送できる。がれきを運び出した後は、復興のための資材の搬入が待っている。年間約90万人の旅客列車の復興も大切であろうけれど、今議論すべきは約2000万トンの貨物輸送である。

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