高税は地下経済の温床となる(1/2 ページ)

» 2012年02月21日 08時00分 公開
[純丘曜彰,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:純丘曜彰(すみおか・てるあき)

大阪芸術大学芸術学部芸術計画学科哲学教授。玉川大学文学部講師、東海大学総合経営学部准教授、ドイツ・グーテンベルク(マインツ)大学メディア学部客員教授を経て、現職に至る。専門は、芸術論、感性論、コンテンツビジネス論。みずからも小説、作曲、デザインなどの創作を手がける。


 この時期、研究費の精算のために領収書を整理する。レシートから何から何でも取ってあるのだが、さて提出となると、オークションやマーケットプレイスで買ったものに領収書がないものが少なくない。

 いや、なくしたわけではない。よく見ると領収書ではなく納品書だったり、あたかも領収書であるかのように金額が書かれていながら、「領収書、領収しました」などの文言がなかったり。通販でも、領収書を出してもらうのに、多額の発行手数料なるものを追加請求しているところが最近は目立つ。さて、その発行手数料分の領収書を出してもらうのにも、また発行手数料を取る気なのだろうか。

 実は、これには先例がある。イタリアだ。現在、イタリアの付加価値税は21%。その結果、「21%もの税金を払うくらいなら、10%引きにするから、おたがいネーロ(闇)にしないか」と持ちかける者が増え続けた。領収書を切らず、現金だけをやりとりして、取引はなかったことにし、納税の義務そのものを消滅させる。

 これに対して、政府は「購入者は店に対して領収書を請求し、その領収書を店の外まで持って出なければならない」と義務付け、これに違反した購入者と店に、150〜1500ユーロもの罰金を科して取り締まることにしたが、取り締まりが追いつかない。

 このラヴォーロ・ネーロ(闇仕事)は、いまや雇用にまで及んでいる。つまり、なにごとも無料のボランティア、ということで仕事をする。実際は現金が払われるが、それはあくまでチップ。表向きは雇っていないことになっているから、雇用側は所得税などを源泉徴収して納税したりしない。雇用が継続されることもないし、事故があっても雇用側は知ったこっちゃない。

 イタリアの失業率は、現在9%近くの高さだが、それでも、みんなが何とか生活できているのは、裏にこんなカラクリが潜んでいることも一因だ。こんな調子では、名目上の数字はどんどん悪化し、国家財政が破たんするのも当然。そして、このような裏経済は、表経済をむしばんでいき、社会保障も、雇用制度も、根底から崩れていく。

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