年々縮小を続けるボウリング業界にあって、「新規顧客開拓→定着化プロセス」の方法とそれを実現する上での課題については分かった。
それでは5年、10年という中長期的な展望に立った場合、日本のボウリング業界は生き残っていくことは可能なのだろうか? 仮にそれが可能だとして、では今後どういう方策を採るべきなのだろうか?
「先ほども申し上げましたが、日本の大多数のボウリング場は昭和40年代ころに建設されたものですので、遠からず建て替えの時期を迎えます。その時に、莫大な設備投資をしてまで、またボウリング場を作ろうという人が果たしてどれだけいるだろうかという点が非常に懸念されます。業界が現状のまま推移するならば、建て替え時にボウリング場を作っても回収できないということで、ほかの業態に転換するところが多く現れるでしょう」
そこで中里さんが会長を務める日本ボウリング場協会として、中長期をにらんで計画を進めているのがジュニア層の開拓・育成だ。
「全国47都道府県に5〜15歳を対象にしたジュニア・クラブを創設し、まずはレジャーとしてボウリングに親しんでもらい、やがては選手としての育成を図っていきたいと考えています」
なぜこの世代かと言えば、中高生だとすでに多くの生活上の選択肢が存在していて、そこにボウリングが新たに入り込む余地が少ないからだ。それにジュニア対象だと、両親はもとより祖父母まで巻き込むことが可能で、それはファストフードのマーケティングなどでもお馴染みの手法でもある。
小さな子どもでもボウリングを楽しめる「ガターなしボウリング」を一部導入しているボウリング場も今や半数を超え、さらには「ボウリング滑り台(=投球補助台)」を用意しているところも増えるなど、ジュニア層開拓に向けての地ならしは進んでいる。
ボウリングがかつて人気スポーツだったころ、中山律子さんを始めとする女子プロボウラーたちが日本中の人気をさらっていた。その再現を狙って、業界では20代を中心とする女性プロボウラーたちによる「P★League」を組織しており、試合の模様はBSなどでレギュラー放映されている。その成果というべきか、女子プロたちは全国の競技ボウラーたちの人気を集めているが、普段ほとんどボウリング場に行かない一般の生活者からの注目度となると、必ずしも十分とは言えないし、往年の中山律子さんたちの人気には届いていないようだ。
なぜなのか? その理由を中里さんはこう説明する。
「現代ではサッカー女子日本代表のなでしこジャパンを例に挙げるまでもなく、世界に通用する女性アスリートこそが国民的な人気を博しますし、そうしたアスリートたちの出現こそがそのスポーツの人気を高めることにつながります。ジュニア層の育成を通じて、そうした世界のトップを競える女性ボウラーが出現することを期待しています」
確かになでしこジャパンの面々のような、キャラが立つし腕も立つという女性選手たちが世界を股にかけて活躍する時代が訪れれば、日本でのボウリング人気も再沸騰するだろう。果たして、日本の多くの家庭にボウリングが生活の一部として定着する、かつてのような、あるいはそれ以上の日々はやってくるのだろうか?
「東日本大震災の後、福島県で避難生活を送る被災者のみなさんを招待して、ボウリング大会をやらせていただいたのですが、ボウリングこそ、3歳から90歳まで楽しめる、そして悲しみのどん底にある方々をたとえ一瞬でも幸せにできる稀少なスポーツであることを実感しました。
ボウリングが長崎の出島に渡来してから2011年で150年になりましたが、これからももっともっと多くの人に親しんでほしいし、もっともっと多くの人にボウリングの楽しさ、すばらしさを分かってほしい。それは、努力次第で十分に実現可能なことだと私は信じています」
中里さんのこの想いが実現することを祈りたい。
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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