トラックに負けた、貨物列車の残念な歴史杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2012年02月17日 08時02分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

モーダルシフトに乗り遅れた理由は国鉄型コンテナの「扉」

 ところが、日本の鉄道へのモーダルシフトは一進一退だ。トヨタが本格的に鉄道貨物を活用し始めた一方で、鉄道からトラック輸送へ積荷が流出している。最近のニュースでは、静岡県の岳南鉄道が経営難になった。主力の製紙輸送が減少傾向にあるところへ、JR貨物が引受停止を決めたからだ。さかのぼれば、秋田県の小坂鉄道(小坂製錬)や、岐阜県と富山県にまたがっていた神岡鉄道など、トラック輸送に敗れて廃止された鉄道路線はいくつもある。

 なぜ、日本は鉄道貨物へのモーダルシフトが停滞したのだろうか。「トラックが便利だから」と言ってしまえば、それまでかもしれない。小回りが利くし、大量輸送時代が終わり、少量多方面の輸送需要が増えたからとも言える。しかし、鉄道貨物だってこうした輸送需要の変化に対応してきた。現在、鉄道貨物のほとんどが専用貨車からコンテナ輸送に切り替わっている。戦前の国鉄時代からトラック輸送の普及に対応し、貨車からトラックへと簡単に積み替えられるコンテナ輸送を進めてきた。

 しかし、残念なことに、そのコンテナ輸送は時代の流れに追いついていないのかもしれない。ある日、たまたまこんな光景を目にしたからだ。

都内のトラックターミナルにて

 実にもったいない。何がもったいないかというと、トラックの向きだ。ホームに背を向けて駐車すれば、もっと大きなトラックが2台並んで荷扱いできるところを、こんなに小さなトラックが1台で占めている。効率が悪い。でもこうするより仕方がない。なぜなら、このコンテナは側面しか扉がないからだ。妻面(背面)に扉があれば、トラックは前向きに停めることができ、積み下ろしの際に場所を取らない。

 この風景を見て、貨物輸送の現場では「国鉄型コンテナは使いにくい」と敬遠されているのではないか、と心配になった。

 もっとも、すべてのコンテナが側面開きではない。鉄道コンテナには妻面開きのタイプもある。同じ日に、こんなトラックも見かけた。

コンテナ2台積みのトラック

 トラックの運転席側のコンテナを見ると、側面と妻面に扉が付いている。なんだ。妻面開きのコンテナもあるのだ。鉄道コンテナがすべて同じだと思ったら大間違いだ。調べてみると、国鉄やJR貨物が製作し、荷主に貸し出すコンテナは約80種類もあり、荷主が独自に製作したコンテナも入れると、形式はもっと多い。

 妻面開きタイプのコンテナなら、トラックターミナルで背を向けて駐車できる。もっともそれはトラック1台に1個だけ積んだ場合だ。上の写真の積み方では妻面の扉は使えないから、側面の扉を使うことになるだろう。となると、先ほどのトラックターミナルにこのトラックが横付けしたら、何台分の駐車スペースを使うだろうか。

 ほぼ立方体の国鉄型コンテナは、確かに小口輸送に向いている。小型トラックには最適だ。しかし、輸送単位が大きくなると、コンテナを複数使うことになって、こんな状態になる。かえって効率が悪い。

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