凍えるヨーロッパで、路上生活者はどのように暮らしているのか松田雅央の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年02月08日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

路上生活者のシェルター

カールスルーエ駅のバンホフス・ミッション事務所にて。スタッフとミッションのポスター

 しかしながら、多数の死者が出る寒さはやはり例年にない特別なこと。死者の多くを占めるのは路上生活者だ。

 日本と異なり、ドイツの地下街や駅の構内に寝泊りすることはできない。たとえ24時間開いている施設でも管理側がそれを許さないのだ。その代わり、いずれの都市にも路上生活者が無料・低料金で宿泊できる施設が用意されている。自治体の社会福祉事務所が運営していることもあれば、キリスト教系福祉団体の場合もある。路上生活者にはアルコールや薬物依存症が多く、マイナス20度を下回る寒さで橋の下や空き地に泊まるのは極めて危険だ。路上生活者にとって宿泊施設は命のシェルターとなっている。

 教会系福祉団体が運営するバンホフス・ミッション(バンホフ=駅)も、そういった救済施設のひとつだ。その名の通り駅で活動する福祉団体で、全国約100の主要駅に事務所を構えている。

 バンホフス・ミッションの運営主体は駅によって異なり「カトリックとプロテスタント共同」「カトリックのみ」「プロテスタントのみ」がある。シンボルの赤い十字はカトリック、黄色い帯はプロテスタントを象徴しているが、すべてのバンホフス・ミッションがこの統一マークを使用している。

 バンホフス・ミッションが生まれたのは約100年前のこと。東欧から出稼ぎに来る女性を手助けするのが活動のきっかけだった。たくさんの荷物を持つ人やちょっとした介助が必要な高齢者に至るまで、スタッフの活躍は駅構内で頻繁に見られる。待ち時間を事務所で過ごす高齢者や子供連れ、財布を落とした人、迷子を探す保護者が駆け込むこともある。もちろん、路上生活者が世話になることも多い。

 カールスルーエ中央駅のバンホフス・ミッション事務所は1番ホームに面し、乗客の休憩スペース・小さなキッチン・2つの事務室・トイレ・簡易ベッドを備えている。

 筆者が事務所で話を聞いていると、大きなリュックサックを背負った路上生活者の男性が入ってきた。何か食べるものが欲しいそうだが、残念ながらこの事務所では給食サービスはしていない。たまたまキッチンにクルミの袋があったのでそれを渡すと男性は礼を言って事務所を後にした。

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