ダルビッシュ会見にみる、“伝わる・伝わらない”の分水嶺相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年02月02日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 このエピソードは、ある広報代理店が実際に顧客に対してレクチャーしている内容を参考にした。

 お詫び会見で真っ先にやるべきなのは、被害者に対する謝罪。ミスやスキャンダルが発覚した際、企業幹部が会見で深々とお辞儀をするシーンが頻繁に現れるが、彼らの気持ちが伝わってこないのは、「世間を騒がせた」「社会に迷惑をかけた」との文言を繰り返すのみで、被害者に真っ先に謝るという視点が決定的に欠けているからなのだ。

 ダルビッシュ投手の札幌での会見を、先に触れたフラグマンに当てはめてみる。共通するのは、当事者性だ。つまり、「誰に向けてメッセージを放つのか」というポイントなのだ。

 彼が放ったメッセージの中で、キーとなるのは「ファン」という一言だ。

ダルビッシュの真摯な気持ち

『ファンの方々の応援がないと、僕たちは全然、力を発揮できません。これだけ温かいファンがいるから、できているんだとずっと思っていますし、みんなも口にしています。ファンの方々が変わらず応援してくだされば、間違いなくいい成績を残せると思います』

 これは札幌ドームでのダルビッシュ投手の発言の一部(読売新聞の記事から引用)。短いセンテンスの中に、『ファン』という言葉が3度も登場する。動画で確認するともっと分かりやすいのだが、彼は会見の間中、ずっとスタンドに集まったファンに視線を向けていた。

 ダルビッシュ投手のメジャー移籍を巡っては、さまざまな憶測が乱れ飛び、かつプライベートの問題もあってメディアの関心が極めて高かったのは言うまでもない。このため、テキサスから戻ったばかりのダルビッシュ投手の一挙手一投足に注目が集まっていたわけだが、彼はブレることなく、「ファン」と向き合ったのだ。恐らく、広報のプロが助言したような事実はないはずだ。

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