資本主義は社会問題を解決できるのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年01月30日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 スイスのスキーリゾート地で開かれるダボス会議。今年の大きなテーマの1つは、資本主義そのものだ。英エコノミスト誌も先週号(1月21日号)で「国家資本主義」の特集を組んだ。

ダボス会議公式Webサイト

 最大の問題は、2008年のリーマンショック以来、いわゆる先進資本主義国がさまざまな社会的課題を解決することができなくなっていることだ。米国や欧州の失業率は高止まりし、若年失業率はさらに高い。「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動はまたたく間に世界を席巻した。そこでは「われわれは99%だ」というスローガンが流れた。「富を1%の人間が独占し、自分たちは正当な配分を受けていない」という主張である。

 日本でもそうした傾向は強まっている。厚生労働省の発表によると、生活保護需給世帯は2010年10月時点で150万世帯を突破し、過去最多となっている。受給者数も207万人を超えた。東日本大震災に伴う失業保険の給付が終了するにつれ、この受給者数はさらに増えていくと予想されている。

生活保護需給世帯数推移(出典:社会実情データ図録)

 東京近郊のある市の幹部がこんなことを言っていた。「生活保護を受けている方が楽だと考える若者が増えているのが問題だ」。要するに生活保護をめぐって「モラルハザード」が起きているというのである。

 しかし仕事を求める人々に対し、企業が十分な仕事を提供できているのだろうか。言葉を換えれば、企業が日本国内で十分な雇用を埋める投資を展開できる環境が整っているのか、という問題が背景にある。2010年、歴史的な円高を背景に、海外企業のM&Aが6兆円を超えた。過去最高というわけではないが、2009年に比べると7割近くも増加している。

 つまり、「日本で事業を展開するよりも、国外で事業を展開するほうがチャンスがある」と考える企業が増えているということだ。法人税の実効税率は高いし、マーケットはない。円は高いから輸出競争力もない。通貨の安い韓国勢にどんどん押される。これでは日本国内に投資しようという企業が減るのも当然だ。

 この問題の見方を変えると、それは資源配分を市場に任せる資本主義の原理に従うと、それに伴って発生する問題を解決できなくなるということを示しているのかもしれない。リーマンショックにしろ、欧州で進行しているソブリンリスクにしろ、資本主義が行きつくところまで行くと、実体と金融の乖離が生じて、そのバブルはいつか弾け、経済に大打撃を与える。

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