「あれから1年」を前に、大メディアには報じられない情報を相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年01月26日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『双子の悪魔 』(幻冬舎文庫)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 東日本大震災の発生からまもなく1年となる。言うまでもなく、今年の3月11日は新聞、テレビの大手メディアが「あれから1年」の大企画、大特集を組む。だが、多くの読者が予想する通り、大半は津波の映像を繰り返し流し、復興の足取りをなぞる紋切り型の報道になるはず。被災地の人々の生の声を心に刻んでおくために、大メディアが報じない情報を多くの読者に届ける必要があると筆者は考える。

 今回はあるジャーナリストが記した著書を紹介する。大手メディアとの一番の違いは、当事者としての立ち位置だ。 

大ベテランの驚くべき行動力

 今回取り上げるのは、徹底的に被災地を回って情報を集めた大ベテラン記者の著書だ。

 タイトルは『さかな記者が見た大震災 石巻讃歌』(講談社)。著者は高成田享氏。同氏は朝日新聞の経済部記者、論説委員やニュースステーションのコメンテーター、アメリカ総局長を務めたジャーナリストだ。朝日新聞社の定年を機に、シニア記者として同社石巻支局長を2011年2月まで務めた。

 本コラムでも2011年5月、高成田氏を取り上げた(関連記事)。震災で親を亡くしたこどもたちを支援する基金を立ち上げたのだ。

 石巻で3年間暮らした高成田氏には、支局長時代に知り合った現地の人々が多数いる。著書では、朝日新聞を退職した同氏が震災後に何度も被災地を訪れ、旧知の人々を訪ね歩くところから始まる。

 震災を生き抜いた人たちが、仕事や家庭をどのように再建していったのかが、ほんの1カ月前までその地に暮らした地元民の視線でリアルに、かつ精緻(せいち)に綴られている。また、石巻市の基幹産業である漁業、水産加工業の復活のプロセスも丹念に綴られる。

 著者は、膨大な量の取材を重ねる一方で、先の基金を立ち上げたほか、政府が設けた東日本大震災復興構想会議の委員にも就任。漁業・水産業の復興について提言を行うという重責も担っていた。この間も石巻市や周辺町村を飛び回り、取材を続けていた。

 高成田氏は今年64歳。筆者からみれば遥か雲の上の大ベテランのジャーナリストだが、つぶさに取材し、データをまとめ、これを書籍にするという膨大なエネルギーに驚きを禁じ得なかった。

 同年代のベテラン記者の大半が大手マスコミの重役に就任、現場を踏まずに「コメンテーター」などの肩書きでさまざまなメディアに露出している一方で、著者はあくまでも被災地の現場とそこに暮らす人々にこだわった。そのブレない姿勢にも頭の下がる思いがした。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.