若きビジネスパーソンよ、「食べログ」なんかいらない相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年01月19日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 この幹部、旧大蔵省と銀行をつなぐMOF担のほか、総務部勤務も長かった。いわゆる、業界の“裏表”を知り尽くす人物だった。

 もちろん他社のマークもきつかった。ライバルたちを蹴散らし、幹部との距離を一気に縮めるため、筆者はいつものように“取材メシ”に誘った。ようやくアポが取れ、なにが好みか尋ねたところ、返ってきた答えは「おでん」だった。

 この時、筆者のリストには「おでん」はなかった。同幹部の勤務先の近所にはいくつか有名店があるものの、記者と会っている姿を同僚にさらさせるわけにもいかず、右往左往した。その際、このベテランバンカーが行きつけの店に自ら予約を入れてくれたのだ。

 貴重な取材を経たあと、このバンカーが筆者に告げたひと言が今でも鮮明に記憶に残っている。

 「居酒屋やイタリアンだけじゃなく、鮨や鰻、おでん、天ぷらでも必ず1つか2つ、馴染みの店を作りなさい。きっと仕事の幅も広がると思うよ」

 この幹部も支店時代、同業のライバル銀行マンと熾烈(しれつ)な営業競争を経てきたと明かしてくれた。この際、馴染みの店のリストが役にたったと懇切丁寧に教えてくれたのだ。

 馴染みの店ができれば、予算や予約などでこちら側のわがままを受け入れてくれる。仕事上で大切な人を同伴しても、嫌な思いをさせるリスクが格段に減る、という主旨だった。

 この幹部との出会い以降、元々口の卑しかった筆者はリスト作りに邁進した、という次第。作家稼業に転じてからも取材や打ち合わせで頻繁に飲食店を利用するが、店舗の営業時間の確認などを除けば食べログやぐるナビなどのネット上の情報を利用したことはない。手元の手帳には、20年近くかけて作った和洋中の名店リストがあるからだ。

「馴染みの店」を作ることが大切(写真と本文は関係ありません)

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