最終回 1500万人を満足させることは可能か――問われる「ネットベンチャーの雄」の舵取り短期集中連載・mixiはどこへ行く?(7/7 ページ)

» 2012年01月16日 11時45分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3|4|5|6|7       

ジレンマを超越できるのはイノベーション……だが。

 Facebookは2011年9月、国内月間アクティブユーザー(30日以内にアクセスしたユーザー)が500万人に達したと発表した。これはmixiの3分の1に達する規模だ。この記事をまとめている間にも、ソーシャルグラフを自動的に分類するスマートグラフを発表したり、相手とフレンドでなくても更新情報を受け取れるフィード購読機能を開始するなど、矢継ぎ早に機能向上を続けている。

GREEの田中良和氏(77年生まれ)らとともに、「ナナロク世代」に並び称される笠原健治氏(75年生まれ)は、次なるイノベーションを生み出せるだろうか?

 インタビューで原田氏が「mixiが巨大なソーシャルグラフを内包するようになって以来、それに対応する組織も大きくなってきました。適切な意思決定が各部門で行えるよう体制の整備や権限委譲を進めていた、その矢先にTwitterやFacebookといった海外勢が急速に国内市場にやってきました」と率直に現状を語ったのは印象的だった。加えて、いまアクセスのほとんどを占めるモバイルユーザーのスマートフォンシフトが控えている。そこでの離反をできるだけ避け、mixiはユーザーに魅力を提示し続ける必要もある。

mixi本社ロビーには創業時からの集合写真が飾られている。従業員数は連結で350人を越えた

 リアルグラフ、あるいは先の記事で語られた「ローカル(生活密着)」にこだわりつつ、顕名を許容するアカウント(=ゆるやかな本人性)を維持したまま、オープン化に向かうmixi。そのチャレンジは、Facebookや他のソーシャルゲーム系プラットフォームとはまた異なるジレンマや困難を抱えながらのものになる。それを解決するためには、サービス開始数年間に見られたようなイノベーションを再び起こしていくほかないと筆者は考えている。そのためには、それを誘発し支持してくれるようなユーザー層、いわゆるアーリーアダプター層とmixiは今一度対話するべきではないだろうか。例えば、ニコニコ生放送で、「足あと改良」問題について原田氏、笠原氏が語る、といったことがあっても良いはずだ。そういった生身に近いコミュニケーションこそが、バーチャルグラフ中心に台頭するソーシャルゲームや、海外生まれのソーシャルメディア・SNSとmixiの違いを際立たせることになるだろう。

 ユーザーの側からも「mixiはオワコン、トレンドはFacebookやTwitter(あるいはGoogle+)」と断じてしまうのは簡単だ。しかし、2004年の開設から、登録会員数2000万人を超えるユーザーを抱えるまでに成長したmixiは、「国産の情報社会インフラ」とも呼べる存在だ。そのmixiが抱える悩みや努力を、私たち――特にITに関わる関係者やそれに関心を持つ読者が他人事としてとらえて良いのか、今一度考え直してみても良いのではないだろうか?

 圧倒的な登録ユーザー数を背景に、これまで広告媒体として揺るぎない地位を保ってきたmixi。しかし昨年から広告代理店関係者からも「mixiは大丈夫か?」という声が聞こえてくるようになった。創業以来、いわば日本のネットベンチャーの一つのロールモデルで有り続けたmixiがこの難しい時期を乗り切って、「スケールし続ける」ことができるのか、またユーザーはそれを支えきれるのか、あるいは国産サービスをまた1つ見限るのか――日本のITサービスとユーザーの在り方がいままさに問われている。

著者紹介:まつもとあつし

 ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマート読書入門』(技術評論社)、『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)など。

 取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。Twitterのアカウントは@a_matsumoto。


前のページへ 1|2|3|4|5|6|7       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.