最終回 1500万人を満足させることは可能か――問われる「ネットベンチャーの雄」の舵取り短期集中連載・mixiはどこへ行く?(2/7 ページ)

» 2012年01月16日 11時45分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]

 これまでmixiは「コミュニティ」を、リアルグラフ(現実の人間関係=ホーム領域)を超えた交流の場として用意してきたが、あくまでこれはユーザー同士が集まって共同で運営する性格の強いものだった。そこで交される情報は、限りなくフラットに近いものだったと言える。

 それに対して、Facebookページ(旧名「ファンページ」)や2011年8月31日に新たに設けられたmixiページでは、場を提供するアカウントが情報の発信源としてイニシアティブを持つ。ユーザー同士のやり取りという“内輪”のコミュニケーション(もちろんそこには良さもあるが)になりがちだったmixiのコミュニティに対して、mixiページやFacebookページはいわば“広報板”に近く、インターネットに対して公開しても違和感が少ないものだ。

 原田副社長が「コミュニティや、通常のアカウントで企業や有名人がmixiに参加することに違和感があった」と述べたのも、この「ページ」にあたる場所がmixiに存在しなかったというのが大きな原因だ。筆者は2010年9月10日に開催されたmixi meetup2010で発表となった「チェック」「イイネ!」機能と、その採用を表明する大手ITサービスの模様を取材しているが(参照リンク)、その際、コミュニティ機能の強化(インターネットへの公開を可能にするなど)という形ででも、この「広報板」に当たる場所を用意する必要を指摘していた。約1年経って、ようやくそれが登場したことになる。

 図に示したように、mixiはこれで見かけ上はFacebookと同じファンクションを備えたように見えるが、まだ2つ越えなければならないハードルが待ち構えている。匿名(顕名)性というソーシャルメディアを巡る古典的・本質的な課題と、教条的なリアルグラフの重視からサードパーティが離反したことである。これらについては、後ほど詳しく考えていきたい。

様々な機能の集合体となっている現在のSNSを、主要な機能のみ抜粋し概念的に整理して図にまとめた。さらにAmebaとも比較するとmixiの現状が見えてくる

 ところでここに至る間、足あとの改修問題が話題となった。連載第3回でも紹介したようにmixiページで行ったアンケートを見ると、まだ多くのユーザーはmixiの説明に納得はしていないようだ。コアなユーザーであるほど、かつてmixiを特徴付けていた日記と対の関係にある足あとに愛着を感じている、ということの表れだろう。

 ただ、既にmixiは日記を中心としたサービスではなく、1つ1つの日記に自動的につく足あとよりも、「イイネ!」ボタンの方がユーザー、運営者双方にとって合理的だという方針は、客観的にも理解できるところだ。2009年9月にスタートしたmixiボイスが、現在mixi内でもっとも活発なソーシャルストリームとなっている今、足あとの持つ「重たさ(=更新内容を見たという証拠が残るにも関わらず反応しないことへの後ろめたさ)」の方が、上の図でいうところの「利用の状況(データ等)」にはネガティブに働く。

 一方、ユーザーからの「声」には、古参ユーザーを中心に、足あと存続を求める声が多く含まれるはずだ。mixiを長く使う古参のユーザー(コミュニティでも熱心に活動するコアなユーザー)にとって「足あと」はmixiのアイデンティティともなっており、いきなり「イイネ!」に移行させるという決断には至らなかったという経緯は、mixiからの発表資料からも見て取れる。

 「足あと」という機能をバッサリ切り捨てるのではなく、「訪問者」という形へ移行することで、mixiが愛着を感じるユーザーと、「重さ」を感じるユーザーの両方、つまり全てを満足させようと試みているのは、現在のmixiの意思決定のあり方を如実に示しているように筆者には感じられる。

「足あと」機能を「訪問者」機能に変更した背景。訪問者を通知する期間は当初7日だったが、のちに5日に縮小され、2012年1月現在は3日に短縮されている

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