なぜドイツは製造業が強いのか――歴史を振り返る松田雅央の時事日想(2/4 ページ)

» 2012年01月10日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

第2の展示ホールは動力機関

 世界初の精密バルブ付蒸気機関は、1865年にスイスで製造された。200度の蒸気で約160馬力を生み出し紡績工場で使用されていた。当時、これほどの設備を所有できたのは特別な資本家であり、同時に権力者でもあった。彼らの所有する機械にはそれなりのステータスが求められ、機能とは関係なくギリシャ装飾円柱をかたどったデザインの柱が使われている。

 時代は移り、最新の動力機関として展示されているのはドイツMAN社製のTGX V8ディーゼルエンジンだ。この大きさで680馬力を生み出すから、重量あたりの馬力で比較すると130年あまりで効率は数百倍アップしたことになる。

展示ホール「動力機関」。1865年製造の蒸気機関(左)、2008年製のディーゼルエンジン(右)

 航空展示ホールに並ぶ機体もほとんどが実物だ。

 初期の飛行機であれば、例えばベルリンに自前の丘(高さ14メートル)を造り実験を繰り返した初期航空工学のパイオニア、リリエンタールのハンググライダーや、第一次世界大戦で使用された複葉機がある。

 展示のハイライトは動力飛行機を発明したライト兄弟の第2世代型機だろう。10機程度しか生産されなかった貴重な実機のひとつで、米国の博物館や収集家から譲渡の問い合わせが寄せられるそうだ。もちろん博物館として手放す気は全くない。ライト兄弟は本格的な航空機製造に乗り出し欧州市場に期待していた関係で、ドイツ人の手に渡ったそうだ。

 時代はさらに進み、近代航空機のホールには第二次世界大戦前後から今日までの航空機が展示されている。1930年に開発されたドイツの中型機ユンカースJu52/3mは旅客機、輸送機、そして爆撃機としても活用され、5000機ほど生産された。速度が遅いため戦時中は連合国側の輸送機に見劣りしたが、短距離で離着陸可能な性能や扱いやすさ、安定性から、1980年代まで現役で世界の空を飛んでいた。

展示ホール「航空」。ライト兄弟の第2世代機(左)、近代航空機の展示ホール。ユンカースJu52/3m(上部)、ドイツの開発した垂直離着陸戦闘機VJ 101(中部)、ソーラー飛行機(下部)など(右)

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