街から医者が消える? 東大の研究所が明かす、“医療の不都合な真実”25年後の恐怖(2/4 ページ)

» 2012年01月10日 08時01分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

医師不足という「不都合な真実」

医学部新設を求める市民団体のビラ。今年はこのような動きが活発するかも?

 では、このような状況を変えるためにはどうすべきなのか。舛添厚生労働大臣時代に医学部の定員が増やされたが、久住医師はその効果を認めつつも、将来的にみると“焼け石に水”だという。

 「東京大学医科学研究所が解析したデータによると、今の医師数の3倍にしないと追いつかないという結果が出ています」

 医学部定員を3倍にするというのは、医学生の多くが留年することや研究施設の数、教員数を考えれば現実的ではない。そこでおのずと、「医学部新設」という話がでてくる。

 「どの医学部をみても卒業生の5割ぐらいは大学周辺に残ります。医学部をつくれば、ある程度、地域の医師不足は解消されるのです」(久住医師)

 例えば、新潟県のように医学部がひとつしかなく、過疎地で深刻な医師不足が叫ばれているような県にはもうひとつ医学部をつくることで、医師を増やしていくというのだ。

 だが、このような「医学部新設」には全国医学部長病院長会議、日本医師会が反対している。その根拠として、日本は少子高齢化で人口が減り、医師が増えているので将来的に医療状況は良くなるというのだ。東大医科学研究所のデータと真っ向から対立するが、これはどういうことか。

 「医師が増えるという方たちの根拠はOECD(経済協力開発機構)の指標に基づいた1000人当たりの医師数です。ただ、これは医師自体が高齢化して現場から離れるとか、子育て中の女医がパートしかできず、宿直もできないなどの事情は加味されていないのです」(久住医師)

 それに加え、このような見解にバラつきがあるのは、それぞれの「立場」が関係しているという。

 「全国医学部長病院長会議からすると、県内にひとつという医学部の支配権を弱めたくありません。医師会というのは、医師全体の団体と思われるでしょうが、議決権などは開業医が占めています。彼らは“経営者”なので商売敵を増やしたくない。勤務医は“労働者”なので過酷な労働環境を改善するため、医師を増やして欲しいと思っていますが、こちらの声はなかなか届かないのです」(久住医師)

 25年後に医師不足になる、というデータはどうやらある特定の医師たちにとっては、「不都合な真実」のようだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.