コラム
» 2012年01月06日 08時00分 UPDATE

“請求書的”祈りから“領収書的”祈りへ (1/3)

本当の祈りは「他からこうしてほしい」とおねだりすることを超え、「自分が見出した意味のもとに何があってもこうするんだ」という覚悟である。祈りがそうした覚悟にまで昇華した時、その人は嬉々として、たくましく動ける。

[村山昇,INSIGHT NOW!]

著者プロフィール:村山昇(むらやま・のぼる)

キャリア・ポートレート コンサルティング代表。企業・団体の従業員・職員を対象に「プロフェッショナルシップ研修」(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)を行う。「キャリアの自画像(ポートレート)」を描くマネジメントツールや「レゴブロック」を用いたゲーム研修、就労観の傾向性診断「キャリアMQ」をコア商品とする。プロ論・キャリア論を教えるのではなく、「働くこと・仕事の本質」を理解させ、腹底にジーンと効くプログラムを志向している。


 今回は年始にふさわしく、「祈り」というテーマで書きます。正月三が日のテレビニュースの定番といえば初詣。世の中や生活が平和であれば、ますますの安泰を願い、不景気で不安定であれば、より良くなることを願う。いずれにしても人々の心の中から祈りが消えることはありません。

 しかし、私個人は、この年始イベントとしての初詣風景を、少し遠くから見ている1人です。1つには、一部の寺社に商業主義めいたものが目に付くこと。そしてもう1つには、参拝客の「祈りの姿勢」にあります。

 もちろん商業主義に走らないまっとうな寺社もありますし、真摯(しんし)な信仰心で詣でる人はたくさんいます。私自身も仏教を信奉する1人ですが、私は近所の多摩川に出て、昇りゆく太陽に1人静かに祈りを立てるだけのスタイルでやっています。

請求書的祈り・領収書的祈り

 仏教思想家のひろさちやさんは、祈りには2つの種類があることをこう表現します。

 「宗教心というと、今の日本人はすぐに御利益信仰を思い浮かべますが、神様にあれこれ願い事をするのは宗教ではありません。ああしてください、こうしてくださいとまるで請求書をつきつけるような祈りを、私は『請求書的祈り』と名付けていますが、本物の宗教心というのは、“私はこれだけのものをいただきました。どうもありがとうございました”という『領収書的祈り』なんです」(『サライ・インタビュー集 上手な老い方』より)

 私が一億総初詣に「どうもなぁ」と思ってしまうのは、その多くが「請求書的祈り」になっていやしないかと思うからです。そしてそこには「500円玉でも投げ入れて、これをきいてもらおう」という「さい銭」が飛び交います。もし、これで、本当に願いがかなってしまうのなら、私はその神仏や信仰心(?)は、逆に危ういものだと思います。

職人の心底に湧く「痛み」

 ここからは「仕事・働くこと」の要素も含めながら、「祈り」を考えていきましょう。「祈り」について、私が著書でよく引用するのが次のお二人の言葉です。西岡常一さんは1300年ぶりと言われる法隆寺の昭和の大修理を取り仕切った知る人ぞ知る宮大工の棟梁です。彼は言います――。

 「五重塔の軒を見られたらわかりますけど、きちんと天に向かって一直線になっていますのや。千三百年たってもその姿に乱れがないんです。おんぼろになって建っているというんやないんですからな。

 しかもこれらの千年を過ぎた木がまだ生きているんです。塔の瓦をはずして下の土を除きますと、しだいに屋根の反りが戻ってきますし、鉋(かんな)をかければ今でも品のいい檜の香りがしますのや。これが檜の命の長さです。

 こうした木ですから、この寿命をまっとうするだけ生かすのが大工の役目ですわ。千年の木やったら、少なくとも千年生きるようにせな、木に申し訳がたちませんわ。……生きてきただけの耐用年数に木を生かして使うというのは、自然に対する人間の当然の義務でっせ」(『木のいのち木のこころ 天』より)

 もう1人は染織作家で人間国宝の志村ふくみさんです。淡いピンクの桜色を布地に染めたい時に、桜の木の皮をはいで樹液を採るのですが、春の時期のいよいよ花を咲かせようとするタイミングの桜の木でないと、あのピンク色は出ないのだと言います。秋のころの桜の木ではダメなのです。

 「その植物の持っている生命の、まあ言いましたら出自、生まれてくるところですね。桜の花ですとやはり花の咲く前に、花びらにいく色を木が蓄えて持っていた、その時期に切って染めれば色が出る。

 ……結局、花へいくいのちを私がいただいている、であったら裂(きれ)の中に花と同じようなものが咲かなければ、いただいたということのあかしが……。

 自然の恵みをだれがいただくかといえば、ほんとうは花が咲くのが自然なのに、私がいただくんだから、やはり私の中で裂(きれ)の中で桜が咲いてほしいっていうような気持ちが、しぜんに湧いてきたんですね」(梅原猛対談集『芸術の世界 上』より)

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