オリンパス以上の“粉飾”予算、なぜ民主党は歳出削減できないのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年12月26日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 先週、「もう民主党に日本を変革することを期待するのは止めたほうがいいのかもしれない」と書いたが、2012年度予算を見ると、その感がいっそう強くなる。

 野田首相や安住財務相が何と言いわけしようが、これは立派な「粉飾予算」である。世界をにぎわしたオリンパスの不正買収などまるで芥子粒のように思えてしまう。なにせオリンパスはせいぜい1000億円規模の話だが、この予算で粉飾された金額は6兆円を超える。コンプライアンスもガバナンスもあったものではない。ギリシャに入れ知恵して赤字隠しをした米国のゴールドマンサックスも日本財務省には脱帽するかもしれない。

 粉飾の手段は、特別会計と交付国債である。3兆8000億円という復興経費を特別会計として一般会計から切り離した。その財源は最長25年にわたる復興増税でまかなわれるが、その間は復興債を発行する。これによっていわゆる中期財政フレームの基礎的財政収支対象経費はおおむね68兆4000億円に収まることになった。

 もう1つは基礎年金の国庫負担財源だ。年金基金に国債を交付、将来の増税をそこに充当することにして、当面は基金を取り崩すというのである。これによって、約2兆6000億円の国債が別枠になった。

 野田首相はどうしても「一般会計の総額は90兆3000億円と2011年度の当初予算よりも2兆円以上も少なくしたし、国債発行額も44兆円に抑えた」と言いたかった。しかし、実質的に粉飾分を入れると約96兆7000億円、当初予算としては過去最大なのである。そして将来の増税を当て込んだ交付国債2兆6000億円を加えると国債発行額は約47兆円とこれまた過去最高になる。

2012年度一般会計歳出の構成(出典:財務省)

 「財政再建待ったなし」と口にする割には、なぜこうも歳出削減に切り込まない予算ができてしまうのか。それは一にも二にも民主党内のガバナンスの問題だ。

 たとえば八ッ場ダム問題にしても、結局は建設省出身の大臣をすえたあたりから、工事再開という筋書きはあっただろう。最後の段階で前原政調会長が「閣議決定させない」と力んでみせた。最初に中止を打ち出した国交相だったし、「コンクリートから人へ」というスローガンの象徴である八ッ場ダムだから、前原氏本人はガス抜きのつもりだったのかもしれない。それでも離党者が出た。年内に素案がまとまる見通しが限りなく小さくなった消費税増税問題にしても、場合によってはまた離党者が出る可能性がある。

 外部から見れば、それも当然だ。民主党は「予算の組み替えをやれば20兆円ぐらいのカネは生み出せる」と言い、実際にマニフェストでも16兆8000億円の財源を増税なしに捻出し、それで民主党が打ち出した子供手当や高校授業料無償化、戸別所得補償、高速道路無料化などで2013年度に実現するとしていた。

 しかし、今や「2015年までに消費税を10%に上げるのが喫緊の課題だ」といい、その一方で子供手当は後退、高速道路無料化は撤退に追い込まれている。さらに国会議員の定数削減も、公務員の人件費削減も、そして社会保障を持続可能なものにするための給付削減も先送りとなった。要するに、票を減らすようなことはやりたくないのである。増税は幸いなことに自民党も公言しているから、票の上では「中立要因」ということなのだろう。

 民主党ではなく自民党が政権の座についていたら、どうなっていただろう。きっと同じように既得権益にメスを入れることを躊躇(ちゅうちょ)して、同じように巨額の国債を発行することになっていただろうと思う。その意味で、不幸なことにわれわれ有権者には次の政権の選択肢がない。

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