あなたは何を売っていますか?――働く意義を自問する(3/4 ページ)

» 2011年12月21日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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あなたは何を売っていますか?

 で、冒頭のワークに戻ります。さて、みなさんはこの空欄に何という言葉を入れたでしょうか?

 自分は自動車メーカーに勤めているから「私は『クルマ』を売っています」、自分は介護事業会社に勤めているから「私は『介護サービス』を売っています」というような答えを私は求めていません。

 右上に「私の提供価値宣言」としているところがミソでして、この空欄には、自分が仕事を通じて提供したい「価値」を考えて、書いてほしいのです。実はこの「提供価値」を考えることが、職業人としての自分のアイデンティティを確認し、それを基軸にしてキャリアをひらいていくという原点になるのです。そしてこれは自発的な「宣言」なのです。

 実際の研修では、この提供価値宣言をいきなりやるのは大変ですから、私は事前作業を1ステップ入れることにしています。次のシートを見てください。「5つの自己紹介」という質問シートです。この5つの質問を経て、提供価値を考えることを誘(いざな)っていきます。

 私個人の例でやってみますと、

1.【勤務先】(雇用されている会社名を書きます)

 私は「キャリア・ポートレートコンサルティング」に勤めています。

2.【雇用形態】(正社員とか契約社員とかフリーランスとかですね)

 そこで私は「事業主」として働いています。

3.【職種】(具体的な職種を書きます)

 そこで私は「人財教育コンサルタント」をやっています。

4.【業務内容】(担当業務を書きます)

 日々の私の仕事は「人財育成研修を開発し実施する」ことです 。

 ――と、ここまでは誰しも簡単に書くことができます。先ほど触れた、「私は何を売っているか」という設問に対し、大方の人は4番目の設問の答えを書いてしまいがちです。しかし、それは業務の客観的な説明であって、提供価値を宣言しているものではありません。

 次の5番目の設問は、自分の言葉で噛み砕いた主観的な意志の造語をしなければなりません。私は自分自身の提供価値を次のように考えています。

5.【提供価値】

 私は仕事を通し「向上意欲を刺激する学びの場」を売っています。あるいは、私は仕事を通し、「働くとは何か? に対し目の前がパッと明るくなる理解」を売っています。または、私はお客様に「働くことに対する光と力」を届けるプロフェッショナルでありたい。

 この問いを通して考えさせたいことは、私たちひとりひとりの働き手は、目に見えるものとして具体的な商品やサービスを売っていますが、もっと根本を考えると、その商品やサービスの核にある「価値」を売っているということです。

 例えば、保険商品を売っているというのは、根本的には「安心」を売っているとも言えます。また、新薬の基礎研究であれば、その仕事を通して「発見」を売っている、あるいは「その病気のない社会」「健康」を売っているととらえることができます。会計レポートの作成は、取締役に対し「正確さ・緻密さ・迅速さによる判断材料」を売っているのかもしれません。

 その他、スポーツ選手であれば、彼らは「感動」や「ドキドキ」「勇気」を売る人たちでしょう。コンサルタントは「知恵・情報」や「解決」を売っています。料理人は、「舌鼓を打つ幸福の時間」を売っています。コメ作りの農家の人は、「生命の素」を売るといっていいかもしれません。

 いずれにせよ、5問目の欄には主観的で意志的な言葉が入ります。この言葉作りを、時間をかけてじっくりやらせることがひとりひとりの働き手たちを全人的に目覚めさせます。

 細分化された人材スペック項目に合わせて、そこに自分をはめ込んでいくアプローチとはまったく正反対のアプローチが、この提供価値宣言です。

 なぜなら、この宣言によって「自分は何者であるのか?(ありたいのか?)」「丸ごとの自分を使って何の価値を世に提供したいのか!?」が打ち立てられる。で、そのために、いまの自分はどんな知識、能力を新規に習得せねばならないか、補強せねばならないか、あるいはどういうキャリアチャレンジを起こした方がよいか、などの思考順序になるからです。

 その宣言をまっとうするために、今の仕事のやり方・方向性でいいのか、今の会社がいいのか、会社員でやっていたほうがいいのか、日本に住んでいた方がいいのか、業界を変えた方がいいのか……そんな発想がたくましく湧いてくるわけです。

 そういう発想のもとでは、もはや会社側が用意する規定のキャリアパスなど意味を持たなくなる。白紙の未来カンバスに、まったく自由に絵を描かざるを得なくなる。で、もがいてもがいて切り拓いた道が、結果的に自分のキャリアパスになる――そういうたくましい働きざま、生き方に転換するのです。

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