さて、私が携わっている人事・組織・人財教育の世界の話に入ります。
昨今の事業組織が、そしてビジネス世界がどんどん煩雑化するにしたがって、一人一人の働き手たちは、自分を、そしてキャリア(仕事人生)をたくましくひらくことができず、ますます狭い方へ狭い方へ追いやられていく――そんな状況が生まれています。
その大きな理由として、「還元論」的な価値観に基づく方法論の偏重があると思います。
例えば、私たちは優秀な人財をとらえる場合に全人的にとらえようとせず、部分的な知識や技能の集合体としてとらえるようになっています。つまり「人材スペック」なるものをこしらえ、細かな知識要件、技能要件を設定して、どのレベルでどれくらいの項目数をクリアしているかによって、その人物を評価し管理しようとする。
また、MBO(目標管理制度)×成果主義の普及も1人の働き手を分解的に、定量的に行動させる促進剤として働いています。
その結果、働き手はその人材スペックの要求項目に自らをはめ込み、その枠組みに合わせて成長すればいいという考え方になる。一職業人として伸び伸びと、何か一角(ひとかど)の人物になろうなどというおおらかな心持ちで我が道を行く人間はどんどん少なくなるわけです。
そのくせ会社側は若手従業員に対し、「5年後どうなっていたいか?」とか、「この先10年間のキャリアプランは?」などと問い詰めたりする。従業員が答えられるとすれば、せいぜい「人材スペックのマトリックス表にあります通り、3等級の要件a、要件d、要件fの、レベル2+をクリアして、課長になることです」――そんな程度のものでしょう。
「キャリアパス」なんていうのは、そんな中から生まれてきた概念です。組織側が、働き手のキャリアの道筋をいくつか用意してやって、そこの中から適当に選んで、なぞって上がっていけ――まぁ、サラリーマンの世界が「スゴロク」に例えられるのも、うなずけるところです。
しかし、こうしたキャリアパスを用意してやるやり方も、すでに行き詰まっています。30歳半ばを超えてくる働き手にはこれまで管理職というポストを与えて、何とか彼らの居場所と道筋を確保できていたのですが、昨今は……。
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