社食レシピ本が425万部! タニタ・39歳社長の素顔嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(1/5 ページ)

» 2011年12月16日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「リーダーは眠らない」とは?

 技術革新のスピードが上がり、経済のグローバル化も進む中、日夜、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き、どんなことに注目して、事業を運営しているのでしょうか。「リーダーは眠らない」では、さまざまな企業や団体のトップに登場していただき、業界の“今”を語ってもらいます。

 インタビュアーは戦略経営に詳しい嶋田淑之氏。徹底した聞き取りを通して、リーダーの心の内に鋭く迫ります。


 「本が売れない」と嘆く出版業界の苦悩をよそに、2010年1月に発売されて以来、シリーズ累計425万部(2011年12月8日現在)という大ヒットを飛ばし、大きな話題となっている単行本がある。それは『体脂肪計タニタの社員食堂』と題する社員食堂のレシピ本だ。平均500キロカロリーという低カロリーの定食が1カ月分紹介されており、同書のレシピ通りに作れば、おいしい上に満腹になり、しかも健康的にダイエットできるという。

 しかし、タニタと言えば、本来は日本における家庭用体重計のパイオニアだし、世界で初めて「乗るだけで計測できる体脂肪計」を開発した、どちらかと言えば“お堅い”イメージの研究開発型企業のはずだ。

 そんな会社が、レシピ本で世間の話題になっているとすれば、その裏には、きっと、経営者の深謀遠慮が働いているに違いない。そう思った私はいろいろ調べてみたところ、ニコニコ動画で経営者自ら一風変わったダンス(?)を披露しているシーン(リンク先の4分40秒ごろから踊る社長がみられる)を発見した!

 「何とユニークな経営者なんだろう。これは直接お話をお聞きするしかない」。そう思った私は直ちにインタビューを申し入れ、今回の取材が実現することとなった。というわけで、今回の主役は、タニタ社長の谷田千里(たにだ・せんり)さん(39歳)。2008年に社長に就任した3代目である。

タニタの谷田千里社長

偶発的な要素が重なった社食レシピ本のヒット

大ヒットした書籍『体脂肪計タニタの社員食堂』

 早速、社員食堂レシピ本の出版に込められた戦略的意図をうかがおうとした私だったが、その目論見はあっさり挫折した。

 「あの本は偶発的要素が重なって出版されたんです。そして、思いもかけずヒットしてしまったというのが真相なんですよ(笑)」

 谷田さんは、こともなげにそう言ってのけたのである。

 「以前、オンライン情報誌から社員食堂の取材を受けたことがあるのですが、その記事を見たNHKの方が興味を持ってくださって、『サラリーマンNEO』の「世界の社食から」コーナーで紹介いただくことになりました。すると今度は、それを見た大和書房の編集者の方が興味を持って、レシピ本出版の運びとなったという流れなんです。ですから、そこには私としての戦略的意図などはなかったのです」

マズいと不評だったタニタの社員食堂

 そもそもタニタの社員食堂は、なぜ社会にインパクトを与えているのだろうか? そこには、次のようなエピソードがあったという。

 経営理念に「我々は『はかる』を通して世界の人々の健康づくりに貢献します」を掲げるタニタとして、社員が不健康では売れるものも売れなくなってしまう。そこで、社員の健康の維持・増進を目的に東京都板橋区の本社に社員食堂をオープンしたのが1999年のこと。

 しかし、当初はカロリーと塩分ばかりを重視する献立だったため、「マズい」「まるで病人食みたいだ」「腹が減って仕事にならない」など評判が悪く、食べ残しが続出していたそうだ。

 そこで、歴代の栄養士が改良に改良を重ね、やがて「おいしく、お腹いっぱい食べていたら、知らないうちにやせていた」という現在のスタイルにたどりついたのだという。

 板橋区の本社に勤務する約200人のうちの50〜60人が、現在この社員食堂(通称タニタ食堂)を利用しているが、夕食などでラーメンを始め、カロリーの高いものを食べ続けている人々でも、毎日の昼食にタニタ食堂を利用するだけで、ダイエット効果はもとより、一定の健康改善効果が認められるという。

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