「震災後、価値観が変わった」という人は少なくない。家族や友人との絆が強まった、働き方や生き方が変わったという人もいるはず。また「社会に貢献したい」という人も増えたと思うが、私たちの心の中でそうした意欲は強まっているのだろうか。この質問に対し、社会学者の鈴木謙介氏は「強まっていない」と見ている。その理由は……。
鈴木:30代というのは家庭をもっていたり、会社では責任のある立場にいる人が多い。会社に「新規プロジェクトをやります」と訴えてもなかなか認めてくれません。また多くの人はそうしたリスクをとりません。
津田:能力があって、自分でメディアを作って問題提起をする。そうした人材はたくさんいるのに、なかなか人材が流動化しない。その背景には新聞社にしろ、出版社にしろ、待遇がいいから。
ネットメディアではまだマネタイズが確立されていないので、将来の道筋が見えていない。そうした状況であれば、会社を辞めて、自分で起業する人が少ないのは仕方がないことなのかもしれません。
鈴木:大学教授の給与というのはあまり知られていませんが、実はこっそり出回っています。年齢とキャリアの年数を掛ければ、自分の給与がだいたい分かるんですよ。
津田:へー!
鈴木:そして自分の年収とそのモデル給与を比べたときに、「フリーランスでも大学教員と同じくらいの年収を手にすることができるかな」と思いました。
もちろんできるかどうか分かりませんが、「大学にしがみつかないと収入が減る」という状況であれば、そこで我慢しなければいけません。しかしフリーランスでも同じくらいの年収を手にすることができる状況であれば、「嫌になったらいつでも辞めることができる」という自信が生まれます。
研究者の世界では大学に就職できたらそこがゴールで、あとは一生安泰だと思っている人も多いと思うのですが、僕自身はいつ辞めても食っていけるからこそ就職を選んだんですよね。
津田:その考え方、ものすごく分かりますね。
鈴木:テレビ局や新聞社の中にも、僕とよく似た考え方をしている人はいると思う。でも、人材の流動化はなかなか進まない。
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