行動経済学は社会を変えられるか?――イグノーベル賞教授ダン・アリエリー氏に聞く(4/4 ページ)

» 2011年12月14日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3|4       

行動経済学で投票率をアップできる?

――今後、行動経済学が応用されるべき分野もあると思います。例えば、選挙の投票率を上げたいという時、行動経済学的に解決する方法はあるのでしょうか。

ダン 今、投票率は広い地域別に測っていますが、例えば通り1つのような小さな区分で測ってみてはいかがでしょうか。「うちの通りは投票率が低いな」となると、みんな何となく責任感を覚えるので、投票に行くのではないでしょうか。

 また、投票した人にだけ配るシールを作ってはどうでしょう。先ほど触れた外部に対してのシグナルということで、投票に行っていない人に対してもアピールする効果があると思います。

 子どもを使うという考え方もあります。子どもが関係すると人々は理想主義的になるので、例えば、すべての子どもに両親が誰に投票したのか聞かせるようにする。お父さんやお母さんはもし投票していなかったら罪深く感じるので、行くようになるのではないでしょうか。

 これは違法かもしれませんが、選挙に行った人の中から何人かに1億円が当たるという懸賞にするのも1つの手かもしれません。そして、「懸賞に当たっても、投票していないとお金はもらえませんよね。その時、あなたはがっかりするでしょうね」と電話をかけたら、後悔したくないがために投票に行くようになるのではないでしょうか。

――日本では生涯未婚率が増えているのが問題だと言われているんですね。未婚者でも結婚したいという人は結構いて、政府も後押ししているのですが、そういう状況を解消するにはどうすればいいのでしょうか。

ダン 結婚後、夫が浮気して、奥さんから離婚されて訴えられたりすると、財産をいっぱい持っていかれてしまいます。もしかすると、そういうリスクが結婚するための障害になっているのかもしれませんね。そういうリスクを避けるため、欧州だと事実婚する人が多いですね。

 私はコンピュータハッカーのような感覚で行動経済学を見ています。コンピュータハッカーはシステムのディティールを1つ1つ見て、どこにアタックするべきかを決めます。結婚率を上げるためのアドバイスをするには、細かく流れを見て、どこに影響を与えればいいのかちゃんと調べないといけないので、ちょっと今は簡単に言うことはできません

――行動経済学的にハッキングしやすい分野やハッキングしにくい分野はあるんですか?

ダン 脂肪や糖分を減らして自分の健康を維持することや、地球温暖化を防ぐことなどについて行動経済学は有用だと思います。人間にとって将来のことを考えるのは難しくて、あまりやらないことだからです。

 地球温暖化問題というのは、その中でも最たるものかもしれませんね。とても先の問題ですし、起こっていることが目に見えませんし、実際に苦しんでいる人もあまりいませんし、私たちが個人的にできることがあったとしても、今のところ大した効果のあることはできません。こういう問題について行動経済学を利用することで、政府や企業、個人を動かせると思っています。

――最後にこれからやろうと思っている行動経済学の実験について教えてください。

ダン 特に薬関係などで、「人はなぜ“自然(ナチュラル)”と付くものが好きなのか」という理由を調べています。

 そして、社会的な不平等について。加えて、2012年の米国大統領選挙では増税が大きなテーマになる予定なのですが、人々が増税についてどう思っているのか正しいデータはないように思うので調べています。

関連キーワード

経済学 | お金 | 金融危機


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.