何が問題なのか? メディアにころがる常識津田大介×鈴木謙介、3.11後のメディアと若者(1)(2/6 ページ)

» 2011年12月09日 08時17分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

メディアのどこに問題があるのか

鈴木謙介さん

鈴木:僕はメディアの雇用問題にも興味があります。テレビの制作現場を見ていると、下請けが中心になって動いている。テレビ局に気に入ってもらわないと、下請けは仕事がなくなってしまう。なので取材をする際、本当は現場のほうを向かなければいけないのに、テレビ局のほうを向かなければならなくなる。彼らのクライアントは局ですから。

 局側がきちんと取材対象、現場のほうを向いていればいいんですが、彼ら自身が出て行かない限り、現場がどうなっているのかということはなかなか分からない。ディレクターが直接取材に出向いていくのも、コストや人員の問題から継続することは難しい。結果的に、お決まりの構図の中にVTRを差し込む形になってしまう。

 ネット上では「マスゴミ」という言葉がよく使われています。しかし「マスゴミ」扱いされている人の多くは、制作現場でいう下請けのような立場の人かもしれません。

津田:なるほど。

鈴木:またテレビに出演するコメンテーターを批判する人も多いですよね。ネット上では「(コメンテーターの)専門性が低い」などと叩かれたりしています。しかし専門性の高いコメントができる人に出演してもらおうと思っても難しいケースがある。専門家自身が出演を断るとか、逆に横柄な態度をとって他の出演者を怒らせたとか。

 テレビの制作現場の裏側を見ていると、メディアを批判している人たちも「知識が乏しいなあ」と感じるんですよ。例えば「テレビ局はどのようにして番組を作っているのか」といった基本的なことすら知らない人が多いのではないでしょうか。

津田:確かに。一方で「テレビ局はどこまでテレビ番組に関わっているのか」という問題がありますよね。例えば1〜2件のクレームがあっただけで、テレビ局は出演者を守らなかったりする。そうすると良心的にちゃんとしようと思っている出演者や制作者ほど「テレビって、面倒くさいなあ」と思ってしまう。

鈴木:ちゃんとお金が回るようにする、ちゃんと制作の人たちが番組を作れるようにする――このことはものすごく難しいのかもしれない。しかし欧州の大学では、自分でカメラを持って、取材して番組を作るという経験を積ませ、その上でテレビについて考えるというプログラムがあります。市民メディアの担い手となる市民を育てるという目的ですが、作り手側に回る経験が、メディアリテラシーを涵養(かんよう:水が自然に染み込むように、無理をしないでゆっくりと養い育てること)するわけです。

津田:米国、英国、オーストラリアなどの大学でも同じようなことをやっていますよね。

鈴木:欧米ではメディア・リテラシーを高める教育プログラムについての蓄積があるんですが、日本では「テレビがダメだ。だからネットだ」となってしまう。「メディアのどこに問題があるのか」といった分析をするのではなく、いわゆる“ゼロイチ”で考えがち。メディアのメッセージに内在した批判以外のメディア批評ができていないですよね。

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