明るいクリスマスを迎えられるか? EU統一財政案の行方は藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年12月05日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 このところ毎週、欧州の債務危機を追いかけてきたが、今週はこれまでで最も重要な1週間になりそうだ。EUのサミットが木曜日、金曜日と開かれるが、そこで提案されるのは現在の統一通貨をさらに一歩進めて、統一財政に近付けようという案である。もしこの話がEUサミットでまとまらないと、これから年末にかけて欧州だけでなく米国、そしてアジアも相当ひどいことになるかもしれない。

 イタリアやスペインといった大国の国債が値下がりし、あるいはこれらの国の借金コストが耐えられないほどに高くなれば、そうした国債を保有する銀行は巨額の損失を計上せざるをえなくなる。もちろん欧州、米国だけではない。アジアや日本も程度の差こそあれ、基本的には同じである。

 そして銀行は2008年のリーマンショックの時と同じように、一斉に融資を抑え、あるいは融資を引き揚げることになる。いわゆる信用収縮だ。信用収縮の波はまさにツナミである。この言葉は、米FRB(連邦準備理事会)のアラン・グリーンスパン前議長が「100年に1度の金融ツナミ」と議会で証言したことで、あちこちで使われるようになった。

 その当時でも、例えば2009年3月ごろの世界の貿易量は、2008年9月貿易量に比べてほぼ半分になっている。リーマンショックと比べて今回もし債務危機がショックという形で暴発したら、2008年の規模をはるかに超えるという見方が強い(ただリーマンショックの時は、不良債権の規模や誰が保有しているのかがよく分からず、金融機関同士が疑心暗鬼になって被害が拡大したという側面もある)。

 このツナミの発生を防ぐことができるのかどうか、それが今週1週間にかかると言っても過言ではない。このところドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領はたびたび会談を重ねてきた。ユーロ圏17カ国の中でいわゆるコアのコアの国はこの2カ国であるからだ。

 ドイツとフランスは危機への対応で意見が割れて来た。フランスは「ECB(欧州中央銀行)による国債の買い入れを積極的に行うべきだ」と主張してきた。そして「ユーロ圏の国がそれぞれ国債を発行するのではなく、ユーロ共通債を発行すべきだ」とも主張してきた。共通債を発行すれば、高い金利を払って国債を発行してきた国は比較的安い金利で借り入れることが可能になる。

 ドイツはこれに反対している。ECBが国債を「無制限に」買い入れれば(要するにユーロ札を刷ってイタリアに渡すようなものだ)、それはECBの信用を落とし、結果的にユーロ圏にとって高くつくとする(イタリア中銀出身のマリオ・ドラギECB総裁もドイツと同調している)。また、ユーロ共通債にも反対している。共通債はドイツにとっては自分たちが債務保証をしてギリシャが借金するようなものであるから、結果的に債務をかぶることになるかもしれない。それは国内政治的にはとても受け入れられないからだ。

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