3.11後の景色は「もう見だぐねぇ」……被災地で聞いた生の声相場英雄の時事日想(4/5 ページ)

» 2011年12月01日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

「あえて見ない」

 水浜を離れたあと、筆者は震災前に何度も訪れていた石巻市中心部の居酒屋を訪ねた。店舗の移転直後に震災に遭遇したSという地元海産物が名物の小さな店だ。石巻で水揚げされた戻り鰹に舌鼓を打っていると、ご主人のSさんが口を開いた。

 「近所のお寺の塀が倒れて水(津波)の方向が変わったおかげで、店の浸水は60センチで収まった。お寺様のご縁だと踏ん張り、営業を再開させた」

 Sさんが毎朝仕入れを行っている鮮魚店も天井近くまで浸水したことを知っていただけに、戻り鰹の味が染みた。

 ビールを飲みながら、筆者はSさんが南三陸町志津川の住民で、毎日石巻まで通っていることを思い出した。南三陸町の高台にあるご自宅も無事だったと知らされていたので、志津川の現在の様子を尋ねた。すると、Sさんがたちまち顔をしかめた。

 「もうあの景色、見だぐないがら、あまり帰宅していない。店の2階に寝泊まりする日数が格段に増えた」

 Sさんの店で偶然隣り合わせた地元の青年2人も、同じような感情を吐露した。

 「市内でも格段に被害が大きかった南浜地区や魚町には行きたくない。行けばあの日のことを思い出してしまう」

 実は、Sさんの店を訪問する前、同市内で店舗やホテルでお世話になった方々に会った際も水浜地区のAさんと同じような言葉を聞いた。

 また、仮設住宅に入居した当初から、孤独感や喪失感を紛らわすために、アルコール依存症になる人も増えていると知らされた。

 知らず知らずのうちに、石巻の人たちに無神経な言葉をかけてしまったことを、この日は何度も反省した。

 東北のブロック紙・河北新報によれば、宮城県は震災ストレスに対処するために、被災者支援のための『みやぎ心のケアセンター』を12月1日に設立するという(参照リンク)

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