3.11後の景色は「もう見だぐねぇ」……被災地で聞いた生の声相場英雄の時事日想(3/5 ページ)

» 2011年12月01日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

「もう見だぐねぇ」

 仮設のAさん宅に招かれ、しばし水浜地区の状況を聞いた。がれきのほとんどは撤去され、地区では特産品であるホタテ養殖設備の復旧作業が続いているという。訪問当日は、仮設テントの中で、地区の漁師や主婦たちが共同で貝を筏(いかだ)に吊るす準備作業に追われていた。

水浜地区、ホタテ養殖の作業小屋。地区内に複数設置され、多数の住民が共同で作業していた。

 大震災発生以降、6月までの間、Aさんは地元住民のまとめ役として、自衛隊や地元自治体との折衝はもとより、大手紙やテレビなどのメディア対応までを引き受け、気丈に振る舞ってきた。仮設入居後の様子を尋ねた際、筆者が全く予想していなかった言葉が返ってきた。

 「もう見だぐねぇ」

 この言葉を聞いた瞬間、意味が分からなかった。

 がれきの撤去が進み、地区の貴重な収入源である養殖業も復活しつつある。ペースが緩やかだとはいえ、確実に生活再建が進んでいるのではないか。筆者がそう問い返すと、もう一度Aさんは同じ言葉を告げた。

 「避難所で共同生活していた頃は、皆を守るため、なんとかしなければと気が張っていた。しかし、仮設に入って少し余裕が出てくると、変わり果てた姿ばかりが目につくようになった」

 がれきが撤去され、生活を取り巻くインフラの整備が進んだことが、外部から来た筆者のような人間には、確実な復興の足取りに映った。だが、そこに暮らす住民には、全く違う気持ちが沸き上がっていたのだ。

 水浜地区の仮設住宅に住むのはお年寄りの世帯が中心だ。震災前と同じように、地区の住民たちが肩を寄せ、頻繁に声をかけあっているという。

 だが、仮設住宅の眼下に広がる小さな漁港は地盤沈下によって冠水し、かつての住宅地もコンクリートの土台が剥き出しになったまま。筆者が訪れた際は、集落を囲む山々が紅葉し、深い青の海と絶妙のコントラストを成していたが、木々の葉が落ちてしまえば、海沿いの集落はモノトーンの景色に変わる。

 Aさんら水浜の住民は、否応なしに現実の風景を見続けざるを得ないのだ。

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