ガンダムからあの花まで――西武鉄道&アニメの地域活性化戦略(5/5 ページ)

» 2011年11月30日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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経済効果があがっている『あの花』

小野打 今年は沿線の街を舞台としたアニメも大変な人気になりましたね。

野田 先ほど申しました埼玉県秩父市を舞台とした『あの花』ですね。“聖地巡礼”される方がたくさんいらっしゃいました。正直、私たちの沿線の中で秩父市というと、ちょっと過疎化が始まっているところなのですが。

 秩父には札所というものがあって、これまでも年配のお客さまは目にしていました。しかし、ここ最近、特に夏休み以降、若い人たちがいろんなところに出没して……出没と言ったら怒られてしまいますが、たくさん来ていただいて、非常に経済効果があがっているということです。

この後のカンファレンスで紹介された実正山定林寺(札所17番)の様子。巡礼服をまとった年配者が1日数人立ち寄る程度だったが、アニメ放映後若者であふれるようになったという

 そこで秩父市役所観光課を中心に、私たち西武鉄道と沿線を走っている秩父鉄道、商工会議所や商店街が連動して、秩父アニメツーリズム実行委員会を立ち上げ、アニメというキーワードをフックに、いろんなお客さまに秩父を紹介しようということで、いろんな活動をしています。その一環として、「めんまのおねがいさがしinちちぶ」という観光マップを配布しているのですが、かなりの勢いでなくなっています。

「めんまのおねがいさがしinちちぶ」。アニメのモデルになった場所を紹介している。『あの花』だけで、秩父市に8万人以上の観光客が訪れたという

小野打 前半は日本動画協会と一緒に行っている事業、後半は西武鉄道独自、あるいは地域と一緒に行っている事業で、アニメ資源をどう活用しているかということをお話しいただきました。私は話をうかがっているうちに、大変印象深いことを1つ思い出しました。

 「アニメ制作会社さんたちとどうやって付き合っていこう」「沿線をどうやってアニメで盛り上げていこう」と悩んでいた時、西武鉄道の専務さんが「鉄道って自殺があるんだよね。自殺をしないようにしていくのに、アニメってきっといいよね」と言われたんです。「ええっ。アニメのキャラクターを使って、自殺防止のポスターを作るんですか」と思って、その時はギョッとしました。

 しかし、こうやってお話をうかがっていくと、本当に死にたくなくなるというか、楽しくなるというか、沿線全体がアニメで演出されていって、しかもそれが「売らんかな」の使い方ではなくて、お互いに地域を良くしていこう、ここに住んでいる者、ここで働いている者としてやっていこうという雰囲気が伝わってくるようになったのかなと思います。

 最後に野田さん、沿線は変わってきましたか?

野田 そうですね。特に『銀河鉄道999』の電車で感じました。今の子どもたちはメーテルや鉄郎、車掌さんというキャラクターは多分知らなかったと思うのですが、ああいった列車を見て、「あ、メーテルだ」と言う様子を見ると、アニメの力のすごさを感じます。

 あるいは沿線でアニメに特化したイベントを実施していると、「アニメはやっぱり西武線だよね」というように認識していただいているので、社内的にも非常に回りやすくなっています(笑)。

小野打 地域を振興していく時、自治体があって、住民や商店街の活動があって、そこにアニメが参加して、何ができるかということになると思います。特に広域で地域おこしを進めていこうとした時、人を運ぶ、あるいは文化を運ぶインフラとして、鉄道は大変重要な役割を持っていると思います。

 その時、「映画の広告をいかに安くやるか」というタイアップの交渉相手としてではなく、事例として秩父市の『あの花』が出ましたが、本当に地域を大切にしながら、アニメと鉄道と地域の方々が共存していって、その作品の良さが全国、あるいは全世界に伝わっていくような、そして全世界から西武鉄道沿線に「アニメの故郷ってこういうところなんだ」ということで、人が来ていただくような場所というものを、これからもお手伝いしながら一緒に作っていきたいと思います。

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