コラム
» 2011年11月22日 08時00分 UPDATE

抽象的な“一”をつかめば、十にも百にも応用できる (1/4)

本当に大事な人財教育というのは、末梢の具体的な行動をいくつも覚え込ませることではない。育むべきは、抽象的に大本の「一(いち)」を考えつかもうとする習慣だ。大本の「一」をつかんだ者は、いく通りにも自分だけの具体的な行動を生み出せる。

[村山昇,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:村山昇(むらやま・のぼる)

キャリア・ポートレート コンサルティング代表。企業・団体の従業員・職員を対象に「プロフェッショナルシップ研修」(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)を行なう。「キャリアの自画像(ポートレート)」を描くマネジメントツールや「レゴブロック」を用いたゲーム研修、就労観の傾向性診断「キャリアMQ」をコア商品とする。プロ論・キャリア論を教えるのではなく、「働くこと・仕事の本質」を理解させ、腹底にジーンと効くプログラムを志向している。


 私が一般社員向け研修、管理者向け研修でやっている演習がある。それは「事業とは何かを定義せよ」というものだ。この演習の狙いは、その人が事業という活動を具象的に定義するのか、それとも抽象的に定義するのかを確認するものだ。

 具象的な定義というのは、誰もが明瞭に理解できる「形態・外に表れるもの」に着目して概念を限定するものである。従って、その定義は輪郭線ではっきりと描かれたようになる。

 他方、抽象的な定義は、洞察によってあいまいにとらえられる「本質・内に潜むもの」で概念を限定する。従って、その定義には“にじみ”や“ぼかし”といった不明瞭なものが出る。しかし、この「にじみ・ぼかし」こそ、抽象的定義の奥深さになる。具象的定義には解釈を広げる余地が少ないが、抽象的定義には読み手の能力によっていかようにでも解釈を広げ深める余地が残されるからだ。ちなみに、抽象の「抽」は「抜く・引く」という意味で、「象」は「ようす・ありさま」のことをいう。

 さて、演習に戻ろう。事業の最も単純で明瞭な定義は「事業とは●●の製造・販売である」といった表現だ。空欄には自社の取扱商品を入れればそれで済む。これは個別具体的で万人に理解しやすい言い方である。しかし、「事業とは何か」と問われて、このような答えしか思い浮かばない人は、実は事業についてあまり深く考えていない。外側から見えていることを直接的な単語ではめているだけで、「事業の本質は何だろうか」と目に見えない内側に迫っていっていないからである。

 次に、辞書的な表現になると、もう少し一般化が進んで、「事業とは一定の目的と計画とに基づいて経営する経済的活動」(『広辞苑』)となる。しかし、これもまだどちらかというと具象的な定義である。

 では抽象度を上げていくと、どんな定義になってくるのか。繰り返しになるが、抽象とはそのものが内包する重要な性質に目を向け、引き抜いてくることである。例えば、事業の重要な性質を利益獲得だと見る人は、「事業とは物・サービスを通じての利益獲得活動である」という定義をするだろう。

 それに対し、「いや違う。利益よりも上位に顧客の獲得がある。だから、『事業とは顧客獲得活動である』」と考える人も出てくる。さらに、「いや待てよ、顧客を獲得するための肝は顧客満足を与えることなんだから、『事業は顧客満足の創出である』の方がより本質に近いのではないか」、そんな人も出てくるかもしれない。あるいは別の観点から「事業とは価値の提供である」との定義が起こるかもしれない。ちなみに、かのピーター・ドラッカーは「事業とは、市場において知識という資源を経済価値に転換するプロセスである」(『創造する経営者』)と定義した。

ah_nau.jpg 事業とは何か?
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