あなたの夢、●万円でかなえます!ちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2011年11月21日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

その契約でも……いいの?

 本に関しても、新聞や公募雑誌に「自分史コンテスト原稿募集」とか「出版するための原稿を探しています!」という広告がよく出ています。

 こういったものの中には、応募してきた人に「最終候補には残ったのですが、出版できるのは最優秀賞だけなんです。でも、この原稿をこのまま埋もれさせてしまうのは忍びない……」とか、「すばらしい原稿ですね! でも、こういう分野は読者が少なくて、商業出版には向かなくて……」という話になり、最終的には自費出版や協力出版、共同出版という形で本にしましょう!と勧められるものがあります。

 これ、仕組みをちゃんと理解して契約するならいいのですが、「本を出したい!」という人の気持ちが強すぎて、細かいことを確認しないままに話が進み、トラブルになる人もいます。

 契約パターンはさまざまですが、「本を作るコストは著者が全額払うのに、本が自分のものにならない」場合や、「制作コストが妥当であるかどうかの吟味が難しい」という点がよく問題になる点です。

 本を作る費用には紙代や印刷費用、製本代金などのほか、編集、校正、デザイン料などが含まれますが、同じような仕上がりや部数でも100万円未満というところから300万円という業者まであり、値段はあまりにばらばらです。

 一般の人にとっては校正代金や製本代の相場なんてよく分からないし、「有名なデザイナーさんに頼むので、表紙デザイン料は50万円」と請求されても判断基準さえありません。しかし、たとえ自費出版であっても、その価格の妥当性は相当きちんと調べてから契約すべきものだと思います。

 加えて、本の製作費用を著者が全額出したなら、できあがった書籍は全部「著者のモノ」となるのが自然です(実際、自費出版ではそうなります)。本が自分のものであれば、友達や親戚には“タダ”で配ることができるし、もし自己努力で販売できれば経費が少しは回収できます。

 ところが協力出版や共同出版という形になると、書籍はあくまで「公に出版される」ため、本は作者のものではなく「出版社のモノ」になります。この場合本が売れても代金は(書籍価格の1割弱に過ぎない印税を除き)著者には入らないし、家族や友人に配る分も本人が出版社から購入する必要があります。

 そもそも著者印税が1割弱である理由は、残りの9割の中から出版社側が本を制作、流通に乗せ、販売促進するという前提があるからです。大半のコストを著者が払っているのに、本の販売代金が本人に入らないなんて変ですよね?

 しかも、どんな形であれ、本になれば著者は自分で販売努力を重ねます。制作費用の負担もしないのに売れた本の代金が手に入るのですから、企業側にとってはずいぶんありがたいことでしょう。

 本来は、ほかの高額商品の購入の際と同じように、複数の業者から制作費用の見積もりを取った上で自費出版すればいいと思うのですが、自分の本が「全国の本屋に並びます!」と言われたり、「ベストセラーになれば夢の印税生活」といった言葉だったりに心惑わされる気持ちも分かります。

 特にここ数年の間に多額の退職金を手にして定年退職した団塊世代の人たちにとっては、「自分の半生を振り返る本を出したい」「自分が学んできたことを形に残したい」という人も多く、こういった話に乗ってしまう人も少なくないのでしょう。

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