海外で、日本食レストランを開業する苦労とは松田雅央の時事日想(3/4 ページ)

» 2011年11月15日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

――ドイツ人が食べやすいよう、味付けをドイツ風にする店もありますね。

オーナー:基本的に日本の味付けを目標にしていますから、日本人が食べてもおいしいはずです。でも若干難しいところがあって、ドイツ人好みの味はまた少し違うので。

 ウチに来てくれるお客さんは(社会階層で言えば)主に中間層より上。舌が肥えていて「まずくても安い寿司を食べたい」という人たちではなく、価格は高くてもおいしい料理を求めています。値段の安さで勝負はしたくありません。常連客が8割で、シュトゥットガルトだけでなく遠くからも来てくれます。

 めんは香川県からの直輸入。他の食材は3〜4割がドイツの専門業者を通した日本の食材で、あとはドイツのものを使っています。東日本大震災の後、入手できなくなった食材はこちらのもので何とか工夫しています。

豪華な讃岐うどんコース。サラダ、讃岐うどん、海鮮丼、焼き鳥、デザートが付いて35ユーロ

震災をきっかけに

 日本食の需要は限られるが、本物を出す店は少ないからコアな常連客の心をつかめば強い。しかし、順調にみえた日本レストラン業を福島第1原発の事故が揺るがすことになる。日本から食材を取り寄せる日本レストランにとって、放射能汚染の心配が逆風となったことは想像に難くない。Tokio Diningにも大きな試練だったという。

――震災と福島第1原発事故の影響は?

オーナー:事故の後、2カ月間は客入りが7割減りました。大きいのでは?

 長くやっている店はそこまでひどくなかったと思いますが、この店は開店したばかりだったので。食材の日本直輸入をウリにしていたのが、あだになってしまいました。経営をどうするかスタッフとも激論を交わしましたが、値下げして質を落とすことだけはしませんでした。

 その当時、やっぱり常連さんが励ましてくれて。地元新聞社のジャーナリストはこんな風に言っていました。「心配しなくていいよ。皆、2カ月後には忘れるから。ドイツ人は(食の安全に)敏感だから連鎖反応が出るけど、またすぐに別の問題が表面化するよ」と。その後、5月にキュウリ問題(北ドイツを中心とした食中毒問題のこと)がクローズアップされたら本当に客足が戻りました。

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