優れて抽象的な思考は優れて具体的な行動を生む(2/3 ページ)

» 2011年11月11日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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顧客の望むものばかりを与えるのが顧客本位ではない

 確かに、もっと具体的な策を紹介する方が受講者の受けは良くなるのは分かっている。実際のところ、研修市場を見渡してみても、そうした上司のコミュニケーション術に特化した研修商品の方が花盛りである。また、書店の棚を見ても、上司の褒め言葉集や朝礼での話ネタ集など、直接的、即効的なテクニック本が売れ筋だ。

 人は(私も含めて)、面倒くさがりだし、ラクをしたいし、早く効果が出るものを手に入れたいものだ。抽象的なことを考え、至らない自分を内省し、あいまいな中から答えを自分でつかみ取ることは面倒で、しんどい。効果が出るとも分からない。それに第一、退屈である。それよりも、1日の研修時間、1冊の本の中で、さっさと具体的な技術を整理した形で与えてほしい───それが顧客の多数派の声だ。

 研修後のアンケートの数値評価や本の販売部数は、ある意味、大衆人気を推し量るテレビの視聴率に通じるところがあって、その数値獲得をいたずらに追うと本質を見失う時がある。特に研修のような教育サービスの場合はそうだ。だから教育事業に携わる私は「顧客が望む口当たりのいいものばかりを与えるのが顧客本位ではない」と肝に銘じている。親が子にするしつけのように、時に子が嫌がったとしても、親の愛情として施したい、施さなければならない、というのが教育の大事な側面としてある。

 末梢のコミュニケーションテクニックだけを網羅的に披露する部課長への研修は、真に人をリードできる部課長を育てない。抽象的にものを考える力を養わないかぎり、いつまでたっても状況に適した自分独自の手段を生み出す能力は身に付かないからだ。他人の借り物のテクニックで済ませようとする部課長が増えれば増えるほど、大事な抽象論議や対話は職場からなくなる。そうした配下で働く部下もまた抽象的に考え、答えを見出す訓練を受けないから、末梢のテクニック頼りになる。

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