なぜ人は相手の気持ちが分からないのか吉田典史の時事日想(3/4 ページ)

» 2011年11月11日 08時01分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 彼らが言わんとしていることは分からないでもないが、事実関係に誤りがあり、説得力に欠ける。足元を見た中小出版社の編集者らも厳しいことを言い返した。そして、泥沼化していった。

 ここで私が考えたいのは、大企業と中小企業の格差の問題ではなく、「なぜ、人は相手のことが分からないのか」ということだ。やりとりを思い起こすと、主要出版社の編集者が中小出版社の状況を知らないことに尽きる。中小の編集者は、主要出版社の実態をよく知っていた。それにも関わらず、主要出版社の編集者が知ったかぶりで押し通すところに諸悪の原因があると私には思えた。

 4年前、私はとある学者を取材した。そのときに学んだことを紹介する。彼いわく「人の頭には情報を仕入れる"ビン"があり、そこに知識とか情報が入る。そのビンがない場合は、本を読んでも、その知識は頭にさほど残らない。少なくとも、忘れやすい。だからこそ、はじめにビンを作らないといけない」

相手を理解するためのビン

 これを忘年会のトラブルに置き換えると、主要出版社の編集者が中小出版社の編集者が置かれている実態、つまり、情報を集めるビンを頭に入れていないことが口論になった大きな理由の1つであることが分かる。

 仮に、彼らが中小出版社の経営の状況、社員の賃金(基本給、残業代)、労組があるかないかなどの傾向を心得ていたら、忘年会のときもそこで働く編集者の声がすんなりと頭に入ったように思えるのだ。

 このビンの話を、私はこんな具合に生かしている。例えば、先日、北関東にある病院の取材に行った。そのとき、まずは取材の前に、ビンを作るようにしている。例えば、地方にある私立病院の過去20年間分の経営状態、そこで働く医師や看護師らの賃金の推移、トラブルなどである。このうえで、かねてからの知り合いの医師や看護師に、賃金のことなどを聞く。

 そして、取材先の病院に行く。そこで理事長や院長、医師、看護師らに取材を進めると、話が頭に入りやすい。つまり、情報を仕入れる前提になるビンを頭に設けることは、今後、会う相手の置かれている実態の大枠を構築することにつながる。これを心得ると、いざ会ったときの話はスムーズに進む。特に、相手が話すことを素直に聞き入れることができるのだ。

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