インターネットが助けに――競輪トッププロから米国の自転車職人へ世界一周サムライバックパッカープロジェクト(1/3 ページ)

» 2011年11月08日 08時00分 公開
[太田英基,世界一周サムライバックパッカープロジェクト]
世界一周サムライバックパッカープロジェクト

太田英基(おおた・ひでき)

世界一周中のバックパッカー。9月29日現在、トルコ滞在中。1年半で40カ国以上の訪問を予定。若者の外向き志向の底上げのため、海外で働く日本人を訪問したり、旅の中で気付いたことや発見したことをWeb中心に情報発信しながら旅をしている(サムライバックパッカープロジェクト)。学生時代に広告サービス「タダコピ」を立ち上げた元起業家でもあり、根っからの企画屋。Twitterアカウント「@mohideki」では旅の様子をリアルタイムに発信している。

 →目指せ世界一周!「サムライバックパッカープロジェクト」とは?


 僕が中米から南米へのフライトの経由地点として、ヒューストンに行った時のことでした。ヒューストンで働いている日本人の方はいないかなと探したところ、インターネット上で案浦攻(あんのうら・こう)さんの活動を知りました。もともと日本でプロ競輪選手をしていたのですが、引退後、逆に自転車を作るビジネス(Samurai Cycle Works)を始めたということです。

 「これはとても興味深い!」と思い、ヒューストンでお話をうかがわせていただきました。

案浦攻さん

プロの競輪選手として活躍後、米国へ

――自己紹介とこれまでの歩みについて教えてください。

案浦 私は博多出身で、中央大学卒業後、プロの競輪選手として17年間、日本全国を飛び回っていました。当時最高クラスのS級1班に在籍し、ワールドカップでも入賞経験があり、競輪選手としては成功した方だと思います。

 妻は米国から私の地元の大学に交換留学生として来日した時に知り合い、結婚して16年になります。現在5歳と7歳の息子がいます。

――現在の仕事内容について教えてください。

 まず、米国での職歴からお話ししたいと思います。

 米国に移住した直後、中央アジアで自動車販売業に携わっている日本人から、米国から同地へのクルマの定期的な輸出依頼を受けました。「これはチャンスだ」と思い、すべての時間をリサーチに費やし、いつでも輸出準備完了という状況になって、オーダーは受けたのですが決済に至らず、徒労に終わりました。

 その後も、いろいろな仕事の可能性を探ったのですが、「まずはできることから」と思い、地元の大手自転車店にメカニックとして就職。給料は大したことありませんでしたが、米国社会を肌で感じられて、大変楽しかったです。

 1年半が過ぎたところで退職、台湾の工業製品の日本への販売を手伝いました。日本への営業は、すべて任されましたが子どもに手がかかることもあって、日本への出張などがままならず、断念。

 その後、自宅でできる仕事は何かないかと模索していた時、競技用、サイクリング用自転車のフレーム製作を思い出しました。「これなら私の経験が生かせ、自宅のガレージを作業場にすればやっていけるのではないか」と……・。

 私が製作する自転車は、オーダーメイドのスーツのようなものです。まず、オーダー主の体の採寸、自転車乗車フォーム、使用部品、その他希望の特殊工作などを聞きます。それをもとに、フレームをデザイン、その後、スチール、ステンレス素材を溶接、塗装。そして好みの部品を組み付けて、自分だけの一品モノ自転車が完成します。

 ただ、それまでに40台以上の自転車フレームを注文したことがあったので、大体の流れは知っていましたが、実際に作ったことはありませんでした。どこかの製作所に弟子入りしたいところですが、近所にはありませんし、小さな子どもが2人いる状況で、単身赴任は到底無理です。

 以前、ネットサーフィン中に偶然見つけた、コロラド州で、フレーム製作スクールを主宰している日本人フレームビルダーの方に教えを請い、日本在住の先輩ビルダーにメールで教えを請い、どうにか製品ができました。

 「独り立ちするのに最低5年の修行が必要」と言われる職人の仕事を独学でするのはとても難しく、頭を抱え込むことも多々あります。例えるなら、高級フランス料理店の顧客であった私が、いきなりオーナーシェフになって、レストランを開くようなものです。

 しかし、現在ではインターネットの普及で、ビルダー同士がネット上で情報交換できます。ネットで調べれば、作業上の疑問点が解決できなくとも、大きなヒントがえられます。インターネットなしに、私がフレームビルダーを目指すことは無理だったと思います。

 米国には200とも300とも言われる独立系のフレームビルダーがいます。ヒューストンは全米4位の大都市ですが、ビルダーは私のみです。これも、この仕事を始めた一因です。少しずつ名前も知られるようになり、修理や製作の依頼が入ってくるようになりました。地元密着型の自転車フレーム製造メーカー(Samurai Cycle Works,LLC)を目指しています。

 ただ、メールや顔を突き合わせての依頼は問題ないのですが、電話での依頼は私の下手な英語のせいで不安を抱かせ、仕事を取るのは難しいです。電話の受け答えは日本語でも苦手なので、英語ではなおさらです。

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