焦点はギリシャからイタリアへ、欧州は債務危機を乗り越えられるか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年11月07日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 外交の場で一国の元首がこれほど怒りをあらわにするのをあまり見たことがない気がする。ギリシャのパパンドレウ首相が、EU(欧州連合)やIMF(国際通貨基金)、ECB(欧州中央銀行)がマラソン交渉の末にまとめた包括支援策について「国民投票を実施する」と表明した時、メルケル独首相やサルコジ仏大統領は、すぐさまパパンドレウ首相をフランスのカンヌに呼びつけた。

 メルケル首相は、「国民投票で問うのは支援を受け入れるかどうかではなく、ギリシャがユーロに留まる(もっと言えばEUに留まる)かどうかである」と最後通牒にも似た調子で迫ったという。

 結局は国民投票を思いとどまり、議会の信任投票も僅差で乗り切ったパパンドレウ首相だが、大連立政権の樹立に向けての野党との交渉がなかなかまとまらない。野党が首相の辞任と早期の総選挙を要求しているからだ。もっともユーロ圏の離脱は誰も望んでいないようだから、月曜日朝まで駆け引きを続けるということかもしれないが、この期に及んでの権力闘争は、停滞する経済や高い失業率に悩む国民にとってはいい迷惑だ。

 ギリシャがデフォルト(債務不履行)になるかならないかは、もはや市場の関心事ではあるまい。ギリシャ国債についてはすでに民間銀行も50%の「棒引き」に同意しているし、それに伴って自己資本を維持する計画もある。もちろん銀行が資金調達難にならないように手当てもするだろう。

 市場の焦点はイタリアに移っている。ベルルスコーニ首相は、財政再建策を打ち出しているが、リーダーとしての能力については疑問符がついているのは紛れもない事実。IMFに対して支援を要求していないにもかかわらず、IMFによる監視を受け入れたのも、フランスやドイツから強い「要請」があったからだ。

 ついこの間まで、イタリアよりもスペインのほうが問題と思われていたのに、このところ急速にイタリアが問題視されるようになった。実際、イタリアの国債入札ではユーロ圏に加入して以来、最も金利が高い状態になっている。6%をはるかに上回る金利は、もちろんイタリアにとって持続的な水準ではない。

 報道によれば、EUのある高官は、「ベルルスコーニ首相は現状の深刻さを完全に理解している。もしこれまで理解していなかったとしても、今では理解している」と語ったという。

 イタリアがどうなるかは様子を見なければならないが、問題はユーロ圏やEUは十分な資金を用意できるかどうかだ。先週の段階では、EFSF(欧州金融安定基金)の資金枠を1兆ユーロ(約107兆円)に拡大することにした。日本円で100兆円を超えるような金額だけに、欧州だけで用意できるはずもなく、世界最大3兆2000億ドル(約250兆円)もの外貨準備を保有する中国などに出資を依頼している(サルコジ大統領は包括支援策がまとまってすぐに胡錦濤主席に電話をしたし、EFSFのトップはすぐに北京に飛んだ)。

 しかし中国側は具体的な返事をしなかった。その上、楊外相は最近、「この債務問題を解決するために必要なあらゆる知恵と能力を欧州は持っていると思う」と語っている。この発言の心は、中国にとって最大の輸出市場である欧州に支援は惜しまないとはいえ、そう簡単に当てにしてもらっても困るということだ。

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