「分からないものが一番いい」――秋元康氏のAKB48プロデュース術(7/7 ページ)

» 2011年10月28日 02時10分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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分からないものが一番いい

西村 この先、AKBはどうなっていくんでしょう、あるいはどうしたいんですか?

秋元 どうなるか何も分からないですね。僕はこれからのキーワードというのは「分からないものが一番いい」だと思うんです。

 例えば、僕にとって衝撃だったのはフランスの「ジンガロ」、馬のショウです。馬であんな風に知的なショウは作れたのかと。昔で言えば女子十二楽坊とか、「なるほどな」と感心するばかりですよね。あるいはブルーマンも初めにニューヨークで見た時に衝撃を受けましたし、ビーシャビーシャとか、今韓国でやっているドローイングショウとかもすごいなと思いました。つまり見たことがないものなんです。

 僕が優秀なわけでもなんでもなくて、アイドルの総選挙というものをみんな見たことがないから面白そうに思うし、たかだか次歌うシングルのセンターを誰か決めるかだけのことだけなのに、じゃんけん大会を見たことがないから、みんな面白いんです。アイドルはみんな総選挙をやり、じゃんけん大会で(センターを)決めているということになったら、多分それは面白くない。

 だから、見たことのないものが何なんだろうなと(考えています)。アーティストの村上隆さんと何年か前に出会ったころに話していて、「秋元さん、漫読くんって知ってる」と聞いてきて、「何ですか、それは?」と言ったら、「井の頭公園で、漫画をただ芝居仕立てで読んでいる子がいて、漫読くんっていって人気なんですよ」と言っていたのですが、すごく面白そうじゃないですか。多分、漫画を置いて、ただ読んでいるんでしょうね。漫読という呼び方もすごいなと思った。

 そういうものが多分、世の中にはいっぱいあるんですよね。「何て面白いんだ」というのが。よくエンタテインメントとかコンテンツビジネスというと、すぐアニメとかアイドルとかそういう風に考えてしまうし、コンテンツというとスポーツとかいろいろ考えるじゃないですか。でも、もっと何か適当な面白そうだなというものの中に何かがあるんです。

 例えば、『とんねるずのみなさんのおかげでした』の会議を毎週火曜日にやるわけですが、ホワイトボードを前にして、コーナーを考えている間はなかなか面白いのは出てこないわけです。

 でも、たまたまある時、僕ととんねるずの石橋貴明君と元フジテレビアナウンサーの中村江里子とみんなでご飯を食べている時に、中村江里子が「私、焼きそばの赤い紅ショウガ食べられないんですよ。特にあれが赤くおそばに残っているのが最悪で気持ち悪い」という話になったんです。石橋君は20歳の時に僕と一緒にさんざんしゃぶしゃぶを食べた後に飲みに行って、べろべろに酔って、もどして、それ以来ポン酢がだめなんです。僕はおもちがダメなんです。おもちがね、別にのどに詰まったわけでもないのですが、子どもの時から何かこれでおなかがいっぱいになってしまうのが納得できない。

 その話をしていた時に「これを当てるゲームをやったら面白いんじゃないか。これをテレビにできないかな」と言ったのが、食わず嫌い王決定戦なんですよ。あれは多分会議室の中で考えたら、絶対出てこない気がします。

 だから、アニメをやろうとかではなくて、こういうことをやろう、これをやるにはどうしたらいいかということなんですよね。例えば、麻布十番のある飲み屋さんで毎週水曜になるとべろべろに酔っぱらったおじさんがいるんです。いいキャラクターなんですよ、顔から全部。それがいいので、この人に飲み代を出すから、人生相談をしてもらったら面白いんじゃないかと。「私は今、不倫で悩んでいます」とか相談して、それをべろべろのおじさんが答えて。

 そうしたら、それがコンテンツなんです。つまり、どうなるか分からないじゃないですか。でも、もしかしたら、それがすごい人気になって、「人生相談といえば」という人になるかもしれない。

 でも、我々は昔でいえば、文通相手と渋谷のハチ公前で会う時に、自分の中で勝手にこういう人だということを思ってしまうように、「コンテンツはこういうものだ」とか考え過ぎるんじゃないか。むしろ、「こんなものがコンテンツになるの?」とかの方がいい。

、おもちゃメーカーが枝豆を押すとぷにぷにと豆が出てくるか来ないかだけのおもちゃ(ムゲンエダマメ)を作っているのですが、ビニョビニョと気持ちがいいんですよ。それも、「枝豆をギュッと出す時のあの感触、気持ちいいよね。これ何かできないかな」と思った人が作ったんですよ。

西村 なにげない、さりげないことでも、ふと気付くか気付かないかですよね。

秋元 そうです。だから、企画は気付くことですよね。

河口 秋元さんは基本的に何を考えているか分からないんですよ。先ほど、市場調査からは決められた、予定されたものしか出てこないとおっしゃたじゃないですか。

 飽きないということは新鮮だということなのですが、市場調査だと先に(レポートを)読んでいるから飽きるわけですよ。秋元さんの飽きないことをやっているというのは、市場調査前でも自分でも分かっていないような直感力があるからじゃないかと思いながらさっきからずっと聞いているのですが。

秋元 いや、そんなこともないです。多分この中にも同じような考え方の人がいらっしゃると思うのですが、僕は40歳までちょっと勘違いしたり思い上がっていたりしたなと思うのは、例えばテレビだと「この時間帯はこういう層が見ているんだ」とか、映画は「この層を当てにいく」とか、ターゲットを先に考えていたんです。つまり、「大衆はこういうものを望んでいる」と。オンエア時間に自分の家にいても、その番組を見なかったり、自分の関係した映画が公開しても、わざわざ見に行かなかったりすることに気付くんです。

 そこで分かったのは、当たり前のことなのですが、「大衆のために作っている」と言いながら、自分も大衆の1人であることを忘れているんです。まあ、そんなのに気付く人はいっぱいいるのでしょうが、僕は40歳くらいで気付いた。「なるほど、自分が面白くならないとダメなんだ」と。自分がワクワクして面白いんだと思わない時、それはターゲットがどこであれ、絶対当たらないですよね。

 コンテンツが当たる時というのは、ドミノ倒しのように倒れていくんですね。タレントでいえば、一番のファンはお父さんやお母さん、友達だったりが「あなたAKB48のオーディション受けなさいよ」と言って受けて、今度はそこのマネージャー、そしてファンが順番に倒れていくんです。でも、まず自分が倒れないとドミノは倒れていかないんですよね。

 それまでは自分はツンと立っていて、「多分こういうものを望んでいるんでしょ」と作っていたのですが、やっぱり自分がワクワクして、「これどうなるんだろうなあ。面白いなあ」とか、アイドルの曲でも「この曲は面白いよな」ということがどこまでできるかというのが大きいと思うんですよね。

河口 歴代の創賞はゲームクリエイターや漫画家、アニメ映画プロデューサーといった方が続いていたのですが、今日聞いていると、秋元さんが特定のジャンルに一切とらわれずに逆に日本的なものをものすごく押し出しているというのは、可能性として面白いですよね。

秋元 周りを見ながら何かをやるのではなくて、自分がいいと思うものをやり続けることの方がいい。それは何度も言っているのですが、止まっている時計は1日に2度時間が正確に合うんです。でも今何時かを見て合わせると何秒か遅れたり、何秒か進んだりするんです。だから、止まっている方がいいんです。

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