「分からないものが一番いい」――秋元康氏のAKB48プロデュース術(4/7 ページ)

» 2011年10月28日 02時10分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

女の子たちの競争

河口 AKB48は48人の倍以上の人数がいるのですが、秋元さんは女の子たちのサバイバルという感覚をすごく大事に使っているなと思いますね。

秋元 そこはもちろん「競争がどう働くんだ」といったことでミィーティングを何度も重ねます。徒競争でも順位を付けない時代になってきました。僕も無理な競争や格差というのは、本人が望まないものにおいてはあってはならないと思うんです。

 でも、彼女たちは芸能界を目指すオーディションを受けたところで、もう競争が始まっているんですね。だから、AKB48の中で競争しないということは、芸能界全体の中でも競争できないことになってしまう。例えば野球部があって、一軍と二軍がある。二軍だからといってやめるわけではなくて、みんな一軍になるために頑張る。そういうことでいうと、AKB48はもちろん思春期の女の子たちなので、周りのメンバーとの競争意識ももちろんありますが、でもやっぱりもうちょっと上を見ていますね。

 つまりAKB48での順位というより、「プロになった時、どういう風にしたらいいところまで上がれるのか」ということを考えているような気がします。総選挙とかをやって1回目にもし何かギスギスしたらやめようと思ったのですが、むしろポジティブになりました。

左から西村知江子氏、河口洋一郎氏、秋本康氏

西村 内部的な競争というのも分かりますが、総選挙やじゃんけん大会は私たち一般市民にも見せています。じゃんけん大会で武道館をいっぱいにするというのは「秋元康すごいな」とか思うのですが、やはりそれは内部的に競争させるというのもあるますが、1つのエンタテインメントとしての側面もありますよね。

秋元 そうですね。基本的にはお祭りですよね。ネットがあることによって、ファンのみなさんの声などを聞きとりやすくなったんですね。

 僕は昔、劇場が始まったころ、ずっと劇場の脇に座っていて、出てくるお客さまに「どうだった?」とか「どの曲が良かった?」とかずっと話し込んでいたんです。できたばかりの野球部だから、「あれはピッチャーにした方がいいですよ」という感じで、すごくアドバイスをもらったし、それが今度はネットになっていくわけですね。ネットでいろんなことを書いてくれる人たちがいっぱいいるのですが、その中にはやはりいろんな思いがあるんですね。

 AKB48は最初24人だったので、CDジャケットに全員顔が写ったし、音楽番組にも全員が出られたんです。でも、人数が増えてくると、まずCDジャケットに入らなくなってくる。音楽番組も「人数少なめにお願いします」とか言われるので、選抜組というのができたんです。選抜組ができたのですが、「人数がいっぱいいて、顔が分からないよ」とよく言われたので、みんなが「この人!」と思い浮かぶような、前田敦子がセンターだったりする配列にするといった、ある種のフォーマットを作ったんですね。

 そうすると、だんだんファンのみなさんから「秋元の目は節穴か」「お前、何も分かっていない」「お前は何年アイドルやってるんだ」と人格を否定されるようなことを言われたり、「あの子を入れなきゃだめだ」とか「この子は落とせ」とかすごいあるんですよ。

 そこで「分かりました。じゃあ年に1回だけ、オールスターの夢の球宴みたいにファン投票でやったら面白いんじゃないか」ということで、お祭りで総選挙をやったんです。

 そうしたら今度は「総選挙といっても、メディアに露出している方が有利じゃないか」と。それはそうですよね。でも、「これは不公平な人気投票です」ということは、初めから言っているんですね。だって、普通の選挙のようにその期間はテレビに出なくなるとかないですから。やっぱりテレビに出る人たちが有利なんです。

 そして今度は、「それが有利じゃないかというのは分かりました。じゃんけんだったら、みんなにチャンスがあるから面白いんじゃないか」と。

 何が言いたいかというと、ファンのみなさんと対話をする、実際に会話をしていなくても、やりとりをしているかのようにコンテンツを作っていくことが今の時代に合っているのではないかと思います。昔はテレビがすごく強くて、僕らが「とんねるずでこういうことをやったら受けるかな」というのをやっていたのですが、今は「みんなどう思っているんだろう」とか、そういうことを考えますよね。

 昔は送り手と受け手しかなかったのですが、ネット社会だと今度はファン同士とか、横に対して送り手になったり、受け手になったりするんですよね。だから、「今度の●●はすごくいいぞ」とか「今度の●●は見る価値なし」とかそういう言葉が飛び交う。そこが多分、面白いんじゃないですかね。

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