ソーシャルゲームにおける日本型データ・ドリブンのあり方とは(後編)野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/4 ページ)

» 2011年10月25日 12時55分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

KPIの変動分析とゲーム内分析

 ソーシャルゲームのデータは、売上高に影響する指標(KPI=Key Performance Indicator)とゲーム内行動に大きく分けられる。

 基本となる指標は、新規獲得ユーザー、アクティブユーザー(AU)、課金ユーザー(PU)である。これらの数値を日次あるいは月次で比較する変動分析が、データ分析の出発点となる。

 例えば、前月と比べて新規ユーザーの伸びが鈍化していれば、プロモーションに力を入れるべきであると分かる。アクティブユーザーは伸びているのに課金ユーザーが少なければ、有料アイテムの設定などマネタイズ部分に問題があると分かる。KPIの変動分析で、およその問題点を知ることができる。

 それに対して、ユーザーのゲームのプレイ履歴から得られるデータは、具体的な解決策を導くものである。

 例えばバトル系のゲームならば、バトル回数、勝った回数と負けた回数(勝率)、仲間に助けられた回数、バトル相手とのレベル差といった、ゲームの仕組みそのものを表す変数である。勝つばかりのバトルもつまらないが、負けてばかりもやる気がそがれる。ちょうど良い勝率や難易度にコントロールすることで、ユーザーの白熱を引き出すことができる。

 ゲーム内でのアクションを1つ1つ拾っていくと、分析対象となる変数は数多くなる。そこで、その中から重要な変数を統計的に洗い出すのにデータマイニングの手法が使われる。アクティブ率(AU)や課金率(PU)に影響する変数を見つけることが目標となる。

ゲーム内分析の限界

 ゲーム内分析は、ユーザー行動を分析することで、ゲームを面白くするための改善点を知るものである。具体的な改善策に結び付く即効性が魅力である。ソーシャルゲームでは、分析結果を受けて毎日ゲームに改変を加えていくことも珍しくない。

 ただし、ゲーム内分析にも限界がある。第一の限界は、詳細な分析を繰り返すうちに、近視眼的な分析に陥る危険があることである。1つの改善がさまざまな波及効果を生むことが、えてして見落とされる。

 例えば、「バトルの難易度を高くすれば、戦況が有利になる有料アイテムが売れる」と仮説を立て、バトルの難易度を上げるチューニングをしたとする。しかし、負けたくないと思って課金をする人もいれば、嫌気がさして離脱してしまう人も出てくる。確かに仮説通りに課金率も変化するだろうが、反対にアクティブ率にも悪影響が出てくる。

 さらに、勝率の変化は、アイテム流通に変化を及ぼし、有料アイテムのありがたみも変わってくるだろう。そのことで、客単価に影響が出るかもしれない。あるいは、ユーザーバトルを回避して1人でできるクエストが多くプレイされるようにプレイスタイルが変化し、このことがゲームの寿命に影響するかもしれない。

 こうした複合的な効果をすべて追うことはできないが、できるだけ多角的に見ていきたい。分析に精を出すほど、分析対象のデータだけに集中し、どんどん枝葉の改善に陥ってしまう危険がある。

 第2の限界は、ゲーム内分析によるチューニングは、現状の改善にはなるが、そもそも実装されていない不足点について知ることができないことである。課金が伸び悩むのは、果たしてバトルシステムのバランスだけに起因するのだろうか。

 筆者は、携帯のバトル系のソーシャルゲームをいくつか同時に始めたことがある。どのゲームもバトルは白熱したし、クエスト成功やバトル勝利のときに表示される効果画面も派手で心地よく、何となく癖になるものであった。それでも何日かすると、頻繁にアクセスするゲームと、どうしても遠のいてしまうゲームとに分かれていった。

 それは、同じ日に始めたにも関わらず、友人の作りやすさがゲームによってかなり違ったからだ。チームを組む仲間作りという設定自体はどのゲームにもあったが、仲間申請の通りやすさや、仲間になった後のメッセージの盛り上がりという、ソフトの部分がまるで違っていた。筆者の場合、バトルの勝敗よりも、メッセージをくれる仲間がいるので何となく「切れない」と感じてしまったことが大きい。

 この場合、問題はバトルシステムではなくソーシャル部分の設計になる。こうしたソフトの部分は、意外と問題の根が深い。現システムのチューニングでは対処しきれず、企画・開発の段階にさかのぼらねばならないかもしれない。

 なぜユーザーが離脱するのか、なぜ課金が伸び悩むのか、その理由はさまざまである。だから、当初の問題設定を狭くしすぎると、解決できない領域が残ってしまう危険がある。

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