さらに少子化にしても、「教育資金が払えないから子どもを生まない」のは、親に「お金がなくても子どもを育てられる」という選択肢が見えないからです。
海外の格安生活圏に住んでいる人は誰も、子どもの習い事や塾、子供服やおもちゃなどに多額のお金はかけないし、大学進学もよほど優秀で奨学金がもらえる子どもでない限り、考えません。こうなると子育てに大金がかかるわけではなくなり、「低収入だから少子化」とはなりません。
また、今の日本では「年収200万円では結婚できない、家庭を持てない」などと言われますが、これも高所得層にしか実現できない専業主婦モデルへの未練が、すべての所得層の人にあるからでしょう。
本来は、年収200万円の2人が結婚したら世帯年収は400万円になるわけですから、低所得者ほど早く結婚して1人当たりの生活費を下げるのが合理的です。そういった選択肢が普通に見えるエリア(大半の人が低収入でも早く結婚しているエリア)ができれば、「お金がないと結婚できない」というおかしなコンセプト自体が崩れるはずです。
また、結婚が早まり、お金がなくても子だくさんで、親戚、兄弟などが近いエリアに住んでいれば、多額の老後資金を貯められなくても、祖父母の老後を数多くの子どもや孫が共同で支えることができます。
戦後の日本が目指してきた「核家族で、専業主婦、持ち家があって、教育投資をしっかり行う子育て」といったパターンとは違うライフスタイルが存在し得る、別のタイプの経済圏がそろそろ日本にも必要な気がします。
ところで、こういった地域の正否を分ける要素としては、「イメージ」と「治安」の2つが重要です。イメージに多大な影響を与えるネーミングに関しては、“スラム”はもちろん、ビジネス全体を“貧困層向け”と呼んでしまうと、多くの人がその存在に抵抗感を感じるでしょう。
しかし、“肥満の方へ”より“メタボでお悩みの方へ”の方が商品を買ってもらいやすいのと同様、“貧困層向けエリア”では住む気がしなくても、“お得な生活圏”や“格安生活エリア”と言えば、受け入れやすく感じる人もいるはずです。
また、治安に関しても、日本は今のところ先進国の中でも最も凶悪犯罪の少ない国の1つであり、こういったエリア運営がうまくいく条件を備えています。
今後、望む望まないに関わらず、そういった地域は自然発生的に出現してくるとちきりんは予想しています。そして、収入格差がなくせないなら、むしろ支出レベルが異なるエリアを作っていくという解のほうが、低所得者層にとっては今よりは暮らしやすくなるのじゃないかとも考えているのです。
そんじゃーね。
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『自分のアタマで考えよう』『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」
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