2011年3月11日、東日本大震災が発生した。
この震災で千葉県内には相当な被害が出たが、幸い銚子電鉄は大きな被害を免れた。しかし、定期外乗客(=観光客)の数は、例年の3分の2に減り、2011年度決算の数値は厳しいものになりそうだと、小川さんは嘆息する。
これから先、銚子電鉄はどうなっていくのだろうか? 銚電ファンならずとも気になるところである。そうした疑問に対し、「弊社には戦略なんてありませんよ。いつだって行き当たりばったりで経営していますから」と謙遜する小川さんが秘策を教えてくれた。
「鉄道事業に関しては『年間の赤字を2000万円程度減らせ』と言っています。そのための方策として考えているのは、日本全国の鉄道ファンから見て、目玉商品となるような車両を保有するということです。弊社はそれがないために、お客を取り逃がしてしまっている側面があると私は考えています。
例えば、京都の嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車や、大井川鉄道のSLなどは、鉄道ファンや一般観光客がそれを目標に行きますよね。それと同様の“目標になる”車両を弊社としても保有し、営業運転したいと考えているのです」
小川さんはトロッコ電車とデキ3形電気機関車(ドイツ製、日本最古の電気機関車)に関し、他社で廃車予定のものを見つけ、安く譲ってもらうつもりだという。
「もう1つの方策は、駅舎を魅力的にするということです。ダムの底に沈んでしまうような村の古民家を移築するなどして、そこを人の集まる場所にしようと思っています。犬吠崎温泉あたりから源泉を引いてきて足湯を作り、人々がその温泉につかりながらお茶を飲んだり酒を飲んだり……駅としては、入場料収入と売店収入を得ることで、鉄道事業の赤字削減に貢献できます」
こうした鉄道事業の赤字幅圧縮と並んで銚子電鉄として重要なのが、主力事業であるぬれ煎餅の製造・販売をいかに強化していくかということだ。
そのために小川さんが準備を進めているのは、現在1本だけある製造ラインの増設である。これによって、日産6万枚体制を構築するのだという。
鉄道の赤字を補てんするためにもぬれ煎餅の利益は貴重であり、そういう意味では増産と同時に直販比率を高めることが有効のように思える。しかし、小川さんはむしろ直販のリスクを懸念する。
「利益率を考えれば直販の方がはるかに有利であることは承知していますが、直販というのは“お天気商売”です。今度の週末は晴れてお客さんがたくさん来るだろうと予想して大量に生産し、直営店に並べても、急に天候が崩れてお客さんがほとんど来ず売れ残ってしまうというリスクが常に付きまといます。ですから現在、弊社では直販比率は全体の3〜4%に留まっていますし(銚子電鉄の3駅で販売)、今後も卸売を中心に強化していく方針です」
小川さんはこうした生産力強化に加えて、ぬれ煎餅の販売単位に関しても、環境変化に対応した新しいものへと変えようとしている。
これまでは10枚820円、5枚410円という単位での売り方を中心にしてきたが、一般家庭で子どものおやつとして購入することを考えた場合、不況続きで家計が苦しい中、ぬれ煎餅のために数百円も使うとは考えにくい。実際、煎餅類というのは、100円ショップやコンビニで一番売れているという。そこで、ぬれ煎餅に関してもこれまでのやり方を改め、1枚1枚個別に包装して1枚100円で販売する方向を強化するのだという(現在はまだ全体の売り上げの4分の1以下)。
「戦略なんてありません。行き当たりばったりの経営です」と謙遜を繰り返す小川さんだが、今置かれた状況の中で最善と考える短中期的な戦略を持っているようだ。
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