EV用の充電ボックスが、なかなか普及しない理由松田雅央の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年10月04日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

 数はまだ少ないものの、街でEV(電気自動車)用充電ボックスを見かけることが増えてきた。今後予想されるEVの普及は電力会社にとってまたとないビジネスチャンスだが、このような充電ボックスを用いた「電気を売る商売」は現在のところ難しいという。

 それでは、EV社会の到来を前に電力会社はいったいどのようなビジョンを描いているのだろう。この9月に開催されたフランクフルト国際モーターショーでドイツの大手電力会社E.ON(エー・オン)を取材した。

サービスとしての充電ボックス

 充電ボックスでの売電が商売にならない理由は採算性にある。

 道沿いや駐車場の充電ボックス設置には8〜10万ユーロ(820万〜1030万円)の費用がかかる。現在普及している230V三相交流の充電ボックスだと小型EVを満タン充電するのに5〜6時間ほどかかるが、それで得られる売電収入は5ユーロ程度、収益にすればわずか数十セント。充電ボックスを1カ所に集め、ガソリンスタンドならぬ「充電スタンド」を建てたとしても収益が少ないことは同じで、数分間の給油で数十ユーロを売り上げるガソリンや軽油のようなわけにはいかない。

 ただし、充電効率の優れた高速直流充電なら可能性はありそうだ。

 「日本のシャデモ方式の高速充電ならば商売になるかもしれません。15分で80%の急速充電ができるなら実用的です。確か『お茶を飲んでいる間に充電できる』という日本語ですよね」(E.ON担当者)

 担当者が言いたかったのはCHAdeMO(チャデモ)方式のこと。これは日本の急速充電インフラ普及を推進するため、自動車会社、充電器メーカーおよびこれを支援する企業・行政などによって組織されたCHAdeMO協議会が標準規格として提案する急速充電器の商標名である。「CHArge de MOve=動く、進むためのチャージ」「de=電気」また「クルマの充電中にお茶でもいかがですか」の3つの意味を含んでいる。昨今、世界でさまざまな日本の単語が使われているが、EV業界ではこんな言葉も通じるようになった。

 さて、現段階では充電ボックスは商売にならないということだが、実際には街中で充電ボックスを見かけることがある。また、EV社会の未来を描いたE.ONのPRビデオにも多数登場するのだが、このギャップはどう理解すればよいのか。

 「PRビデオをよく見ていただければ分かるのですが、充電ボックスの設置を想定しているのは、ショッピングセンターの駐車場や社員駐車場などで、商売ではなくサービスとしての設置です」(E.ON担当者)

 ショッピングセンターなら買い物客のサービス用。環境関連企業ならば社員駐車場や顧客駐車場への設置が考えられる。また、カーシェアリングであれば街中に充電ボックスを設置する必要があるはずだ。このように充電ボックスの活躍する場は多いが、今のところ売電で商売することは想定していない。

電力会社E.ONのブース
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