避難所から仮設住宅へ――被災者の姿を追う東日本大震災ルポ・被災地を歩く(1/5 ページ)

» 2011年09月30日 08時00分 公開
[渋井哲也,Business Media 誠]

渋井哲也(しぶい・てつや)氏のプロフィール

book 『3.11 絆のメッセージ』

 1969年、栃木県生まれ。フリーライター、ノンフィクション作家。主な取材領域は、生きづらさ、自傷、自殺、援助交際、家出、インターネット・コミュニケーション、少年事件、ネット犯罪など。メール( hampen1017@gmail.com )を通じての相談も受け付けている。

 著書に『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)、『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎)、『解決!学校クレーム』(河出書房新社)、『学校裏サイト 進化するネットいじめ』(晋遊舎)、『明日、自殺しませんか?』(幻冬舎)、『若者たちはなぜ自殺するのか?』(長崎出版)など。メールマガジン 「悩み、もがき。それでも...」を刊行中。

 5月、被災地の人々の生の声を集めた『3.11 絆のメッセージ』(被災地復興支援プロジェクト)を出版した。


 避難所から仮設住宅へ。東日本大震災の被災者の生活拠点が移り変わっていく。街の復興と同時に、生活の再建も願いのひとつだ。だが、震災前の「日常」を取り戻すには時間がかかる。復興計画によって現在の居住地が建築制限となる場合がある。また、東京電力の福島第一原子力発電所の事故による影響で、震災後の生活を必死に建て直そうとしている人たちがいる。その姿を追った。

正念場を迎える受験生の佐藤さん

 「いまは予備校には通っていない。(出身の)高校に行けば、勉強を教えてくれる、ということになっている。それに親が『石巻から離れるな』って心配している」

 宮城県石巻市築山に住む佐藤大貴さん(18)を訪ねたのは7月14日。最初に出会ったのは3月19日。私が茨城県水戸市の避難所になっていた三の丸小学校を訪れたときだ。翌日の大学入試のために佐藤さんは市内を訪れていた。4月に佐藤さんの家を訪ねたときは、津波で床上浸水をしていた家の片付けに追われていた。

宮城県石巻市築山に住む佐藤大貴さん

 「家は直さないようだ。復興計画で具体的にどうなるかは分からない。ハッキリするのは9月になってから」

 「東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地における建築制限の特例に関する法律」(特例法)によって、石巻市では釜地区、大街道地区、南浜地区、中央地区、住吉地区、湊地区、渡波地区、鮎川地区、雄勝地区の一部の地域が、建築制限の対象になることが決まった。

 建築制限の対象になると、余震や大雨の浸水で危険性が指摘され、また土地区画整理が検討されていることもあり、二次避難を求められる。建築基準法では、震災発生日から2カ月が建築制限の期間だが、東日本大震災では被害が甚大であることから「特例法」によって、9月11日まで延長された。

 佐藤さんの家はぎりぎりで建築制限にひっかかっていない。しかし、都市基盤復興計画の「災害に強いまちづくり(基本構想)案」(PDF)によると、「避難路・緊急輸送ネットワーク」での「高盛土構造による道路」が提案されている。その案次第では、佐藤さんの家がルートに入ってしまう。そうなると引っ越しを余儀なくされる。そのため、佐藤さんの家はリフォームをきちんとしていない。

 9月12日、「被災市街地復興推進地域」が決定した(鮎川、雄勝の両地区はのぞく)。結局、佐藤さんの家は引っ越さないで済むことになった。

 「おかげさまで(受験勉強に)集中できそう」

 震災から200日。佐藤さんは家族と震災の話をもうしていない。「徐々に忘れていかないといけない」。来年の大学受験のためもある。被災したとはいえ、将来のことも考えないといけない時期だ。受験生にとっては正念場を迎えている。

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