2011年秋冬モデルに見る、「スマホ時代に最適化」されたauの戦略神尾寿の時事日想・特別編(2/3 ページ)

» 2011年09月29日 07時00分 公開
[神尾寿Business Media 誠]

 やや厳しい意見も述べたが、グループ会社が"モバイルWiMAXを持つこと"は、KDDIの経営上の選択肢を増やし、ユーザーがより快適なインフラサービスを組み合わせて選べるというメリットにつながる。KDDIはドコモの「Xi」と同様のLTEサービスにも注力するが、それと並行してトラフィックの分散とパケット料金の低廉化にモバイルWiMAXも利用できるからだ。

 田中社長は今後のマルチネットワーク戦略について、「2013年頃には(スマートフォン/タブレットなどの)全トラフィックの半分程度を、3G以外のインフラにオフロードする」と説明。今回の目玉であるモバイルWiMAXやau Wi-Fiスポットの活用だけでなく、近い将来には「auひかり」などに代表されるFTTH/CATVの固定回線サービスもオフロード戦略に組み込んでいく方向性を示唆した。3Gインフラからスマートフォン/タブレットのトラフィックの大半を待避させられれば、その分、"広いエリアをカバーする"3Gの部分がつながりやすく快適になる。今後、KDDIが複数のインフラを組み合わせて"サービス連携と料金プランの両面で効果的に活用"できれば、同社の総合的なインフラ競争力は、ソフトバンクモバイルはもちろんのこと、あのドコモすら上回ることも考えられるだろう。

ハイエンド市場での高い競争力

 それでは具体的なラインアップの方も見てみよう。

 前述の通り、今回のKDDIはハイエンドモデルを大幅に強化している。スマートフォンを主力にしたのはもちろんのこと、その中の4機種をモバイルWiMAXとデュアルコアCPU対応にしてきた。つまり、注目はこれらハイエンドモデルということになる。

「HTC EVO 3D ISW12HT」の背面。3D撮影対応の2つのカメラレンズが配置されている

 その中でも特筆すべきモデルとなったのが「HTC EVO 3D ISW12HT」である。同機はHTCのハイエンドAndroidスマートフォンであり、サムスン電子やモトローラ・モビリティのハイエンドモデルのライバルという位置づけだが、筆者が高く評価するのはそれらスペック面の優劣ではない。

 HTCは以前から独自のUIデザイン「HTC Sense」の開発に注力してきており、HTC EVO 3D ISW12HTに搭載されたHTC Sense 3.0ではそれがさらに洗練されて、Androidスマートフォンの中では随一の使い勝手のよさを実現しているのだ。しかもこれらは単に見栄えがいいとか滑らかに動くといった見た目だけのよさではなく、「ロック画面からロック解除とあわせてカメラなどの機能を立ち上げられる」「着信中に本体を裏返すとマナーモードになる」など、実用性の高い作り込みになっている。とかく商品力を"スペック頼み"にしがちなハイエンドモデルの中で、UIデザインにもしっかりと注力してきたことは高く評価したい。


auでは初の「F」端末となった「ARROWS Z ISW11F」(富士通東芝モバイルコミュニケーションズ)

 次に富士通東芝モバイルミュニケーションズ製の「ARROWS Z ISW11F」も注目のモデルだろう。これはおサイフケータイや赤外線通信、ワンセグなど日本固有のニーズに対応した上で、モバイルWiMAXとデュアルコアCPUを搭載したハイエンドモデル。さらに防水やmicroHDMI端子、GLOBAL PASSPORTにも対応した"全部入り"であり、内容的にはHTCやモトローラモビリティといった海外勢にも十分に対抗できるハイスペックさとなっている。

 このARROWS Z ISW11Fにおいて、筆者が高く評価するのが、1280×720ドット表示が可能なHDディスプレイにしたことだ。Appleの「iPhone 4」でも強く訴求されているが、画面表示の精緻さ・フォントの見やすさが重要となるスマートフォンでは、画面解像度の高さはそのまま日常域での使いやすさに直結する。今回、展示されていたのは開発中試作機なのでユーザー体験の評価は差し控えるが、ARROWS Z ISW11Fがこの高解像度スクリーン上で滑らかかつサクサクとしたUIの動作が実現できれば、前述のHTC EVO 3D ISW12HTに負けない「使って気持ちいいスマートフォン」になるだろう。製品版の完成度に期待したい1台である。


HuaweiのモバイルWi-Fiルーター「Wi-Fi WALKER DATA08W」

 そして最後に、スマートフォンではないが、筆者の目を引いたのがHuawei製のモバイルWi-Fiルーター「Wi-Fi WALKER DATA08W」である。これはモバイルWiMAXエリアでは下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsの高速通信が利用でき、WiMAXエリアの外では3G(CDMA 1X WIN)で通信ができるというもの。その上で最大5台までのWi-Fi機器をインターネットに接続できる。

 今回のKDDIのラインアップでは、テザリング対応のモバイルWiMAX対応スマートフォンが4台も登場したため、モバイルWi-Fiルーターの必要性はあまりないように思えるかもしれない。しかし実際に利用したことのある人なら分かると思うが、スマートフォンでのテザリングはバッテリー消費量が激しく、ノートPCやWi-Fiタブレットを長時間インターネットにつなぐ、といった用途にはあまり向かない。日常的にモバイルWi-Fiルーター機能を使いたいならば、"専用機"を購入した方が使い勝手がよいのだ。

 このモバイルWi-Fiルーター専用機として見ると、DATA08Wはかなり魅力的な選択肢になる。モバイルWiMAXと3Gの両方に対応することで、通信の速さとエリアの広さを1台で兼ね備えているからだ。似たようなコンセプトは、LTEサービスの「Xi」と3Gの「FOMA」に両対応したドコモのモバイルWi-Fiルーターにもあてはまるが、高速通信の部分で見ると、今のところモバイルWiMAXの方がドコモのXiよりもサービスエリアが広いことが競争上の優位性になるだろう。またDATA08W単体で見れば、本体がコンパクトで持ち運びしやすく、1.45インチのTFT液晶を備えることで通信状態が把握しやすいのも高く評価できる。

 モバイルWi-Fiルーター市場は、この分野の草分けであるイー・モバイルの初代「Pocket Wi-Fi」のユーザーが2年契約の更新期を迎えている。イー・モバイルはいまだ3Gのサービスしか提供しておらず、その点を鑑みると、KDDIのモバイルWiMAX対応ルーターやドコモのXi対応ルーターなど"次世代インフラ組"の製品は、このモバイルルーター市場で新規ユーザーのみならずイー・モバイルのPocketWi-Fiルーターの買い換え需要も十分に狙えるポジションにある。Wi-Fi WALKER DATA08Wは製品の出来映えが高いこともあり、KDDIのデータ通信契約の純増にも大きく貢献しそうである。

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