ソーシャルゲームにおける日本型データ・ドリブンのあり方とは(前編)野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/3 ページ)

» 2011年09月22日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

データ・ドリブンが挑戦すること

 マーケティング・データの解析というと、どの業界でも行われていることであり、特に目新しい印象はないかもしれない。しかし、ソーシャルゲーム業界のデータ・ドリブンには、これまでにはない挑戦がある。

 第一に、データ分析の結果がリアルタイムで反映され、サービス中のゲームプログラムが日々改変される点である。どんなにマーケティングが進んだ業界であっても、データ分析の結果によって販売中の商品仕様がリアルタイムで変更されるということは、さすがになかっただろう。

 第二に、データ・ドリブンによって開発のパラダイムが変化することである。これまでは、開発者の発想や独創性が大事という暗黙の了解のもと、開発現場の勘と経験が何よりも重視された。ところが、データ分析でゲームの仕様を変えるとなると、「ゲームの面白さを決めるのはユーザー」という前提を意味するようになる。ゲームの面白さを知るのは、開発者なのかユーザーなのか。その決定権の変化を意味するデータ・ドリブンは、優秀な開発者の多い日本においては抵抗感があるかもしれない。

 現在、データ・ドリブンの評価は両極端であるように感じる。「ソフトウエアにデータを入れると解決案が自動的にアウトプットされる」という魔法の箱があるように、過度に期待される節がある。あるいは逆に、「データだけでゲームの楽しさが分かるわけがない、ゲームのクリエイティビティが損なわれる」と過度に反発する声もある。

 筆者は、ソフトウエアが機械的に処理してくれる部分も、現場の経験と勘から導かれる部分も、両方をうまく生かしていく方法を追究したいと考えている。パッケージ時代からの人材やノウハウを生かしながら、データ分析を徹底的に行う世界の潮流と上手く折り合いをつける“日本型データ・ドリブン”である。

データ重視か現場重視か

 データ重視か現場重視かという葛藤は、仮説発見の方法の違いとして整理することができる。

 そもそもデータマイニングとは、データ分析者が予想していなかった意外な発見を、大量データの高速処理というマシンパワーで導く手法である。そのため、仮説発見的な手法といわれる。それに対して、伝統的な統計データ分析は、分析者が思考して出した仮説に対して、それが本当に正しいかどうかを検証するものであり、仮説検証型といわれる。

 データマイニングの代表例が、米国スーパーのウォルマートのおむつとビールの事例である。関連のないこの2つの商品がなぜか同時に売れることが、データ分析から発見された。原因を追究すると、既婚男性が奥さんに頼まれておむつを買うついでに自分用のビールを買うケースが多いことが分かった。大規模データの分析によって、おむつとビールという想像が付かない組み合わせが浮き彫りになったのだ。

 一方、精肉コーナーに焼き肉のたれを置くことは、これとは意味が異なる。「肉を買う人は高確率で焼き肉のたれを買うだろう」という仮説は、担当者の経験と頭脳から導かれる“当たり前”のことであり、大規模データを回して初めて分かる意外な仮説ではない。この場合、焼き肉のたれの販売効果を検証するために事後的にデータ分析を行うので、仮説検証型になる。

 おむつとビールのケースも、精肉と焼き肉のたれのケースも、どちらが優れるというのではなく、店舗運営としては両方求めるべきものである。同様にソーシャルゲームでも、データマイニングで仮説を発見するのと同時に、現場感覚でいう“当たり前”の仮説も必要である。

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