連載
» 2011年09月22日 19時00分 UPDATE

郷好文の“うふふ”マーケティング:“楽園思想”が受け入れられなくなった!? 『水戸黄門』打ち切りのワケ (1/2)

1969年の放映開始から42年も続き、今年12月ついに終了するTBSドラマ『水戸黄門』。長寿番組が打ち切りとなった背景には、消費者のどんな変化があったのだろうか。

[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba


ah_go1.jpg 『水戸黄門』第1部

 カミングアウトしよう。私は10代半ばのころ、『水戸黄門』が好きだった。

 月曜20時、誰が決めたのか我が家のテレビはTBSだった。ナショナル劇場が始まり、「人生楽ありゃ苦もあるさ♪」と主題歌が流れた。背景にはあの葵の御紋。観ていないような顔をして、ほぼ毎回しっかり見ていた。

 何しろ当時の私は、中原中也やランボーなどアヴァンギャルドな詩集を読みひたる文学青年として公私ともに通していた。それが『水戸黄門』を流し目で観て楽しんでいると知られたら、家庭でもイメージがガタ落ちである。だから、ひた隠しに隠した(笑)。このころはドラマは半年交代なので、半年後に『大岡越前』になると軽く落胆した。お白洲の裁きも悪くはないが、印籠パワーには匹敵しない。

 1969年から42年も続き、1979年に最高視聴率43.7%を記録した長寿番組の『水戸黄門』が、今年12月ついに終わりを迎える。その視聴率は1979年以降、日本のGDP成長率と似た軌跡を描いてなだらかに落ち続け、ここ数年は10%台前半。毎年打ち切り話があったが、今年ついにホントの隠居になりそうだ。『水戸黄門』はなぜすたれたのか? あれこれ考えてみた。

『水戸黄門』の御威光凋落のワケ

 まずホントに人気が落ちたのか? 「視聴率の嘘」はないのか?

 視聴率には世帯と個人があるが、今どき夜でも居間のテレビを観るのはF3層(50歳以上の女性)くらい。ほかの家族はワンセグやPCでの“個視聴”。だから番組視聴率よりも録画率や再生率、保存率に意味があるが、そんな統計はない。

ah_go10.jpg テレビの平日の視聴割合と平均視聴時間の推移(出典:NHK放送文化研究所)

 では「時代劇のたそがれ説」なのか。大河ドラマも20%ぎりぎり、視聴者が時代劇を観なくなったとも言われる。だが、同じTBSの『JIN-仁-』はヒットした。一概に「時代劇のたそがれ=水戸黄門のたそがれ」とは言いにくい。

 それでは「印籠効果のすたれ」、ドラマが飽きられたのか?

 改めて『水戸黄門』のプロットを検分しよう。諸国を漫遊する隠居した元副将軍の一行に、藩境を越えたあたりで「何かおかしいぞ」という気付きがある。調べてみると案の定不正がある。それも藩主が知らないところで悪代官がヒヒヒと笑っている。一行は被害者と知り合い、ともに悪の尻尾をつかまえる。乗り込んで大立ち回りが始まる。懲らしめたところで「ええい! 静まれ、静まれ! おそれ多くも……」とやにわに印籠をかざす。

 由美かおるさんのお銀の入浴シーンも、中谷一郎さんの風車の弥七が宙返りをして登場するシーンも欠かせなかったが、やっぱり印籠パワー。それは悪政に虐げられる民の「いつか正義が悪を退治してくれる」という、楽園思想の象徴だった。実際水戸黄門の“分計”(視聴率の1分ごとの計測分析)では、ラストの印籠シーンが最も高いという。

 だが、現実がそれを否定する。いくら待っても腐敗政治も利権政治もなくならない。細川政権に失望し、小泉治世の反動に嘆き、民主党に落胆。経済成長は止まり失業は増え、災害でもお上の動きは遅い。正義が悪を退治する印籠パワーは幻想だ。それに気付いた視聴者が離れた。ありそうなのだが、1つ疑問がわいた。

 果たして『水戸黄門』は時代劇なのだろうか?

       1|2 次のページへ

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Loading

注目のテーマ

マーケット解説

- PR -