ある出来事をどうとらえるか?――観念が人を作る(1/3 ページ)

» 2011年09月16日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:村山昇(むらやま・のぼる)

キャリア・ポートレート コンサルティング代表。企業・団体の従業員・職員を対象に「プロフェッショナルシップ研修」(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)を行なう。「キャリアの自画像(ポートレート)」を描くマネジメントツールや「レゴブロック」を用いたゲーム研修、就労観の傾向性診断「キャリアMQ」をコア商品とする。プロ論・キャリア論を教えるのではなく、「働くこと・仕事の本質」を理解させ、腹底にジーンと効くプログラムを志向している。


 最初に古代ギリシャ・ストア派の哲学者エピクテトスの言葉を紹介します。

 「人は物事をではなく、それをどう見るかに思いわずらうのである」

 また、フランスの哲学家モンテーニュは『エセー』でこう言っています。

 「事柄に怒ってはならぬ。事柄は我々がいくら怒っても意に介しない」

「その出来事が」ではなく、「観念が」感情を引き起こす

 この2つの言葉を理解するために、卑近な例を出しましょう。

 職場の同僚2人が昼食のために定食屋に入りました。2人は同じメニューを注文して待っていたところ、店員が間違った品を持ってきました。その時、1人は「オーダーと違うじゃないか。いますぐ作り直して持ってきてくれ」と、厳しく当たる対応をしました。一方、別の1人は「まあ、昼食の混雑時だし間違いも時にはあるさ。店員がまだ慣れてないのかもしれないし。時間もないからそのメニューでいいよ」と、穏やかな対応をしました。

 このように同じ出来事に対し、結果として2人の持つ感情、そして対応がまったく異なったのはなぜでしょう。それは、各々が持つ観念(物事のとらえ方、見識、信念)が異なっているからと言えます。

 すなわち、1人は「客サービスは、決して客の期待を裏切ってはいけない。飲食サービスにおいて注文品を間違えるなどというのは致命的なミスである」という観念を持っているがゆえに、あのような対応が生じました。他方の1人は「混雑するサービス現場では取り違えや勘違いは起こるものである。お腹が満たされれば、メニューにあまりこだわらない」という観念で受け止めたために、あのような対応になりました。

 このように人の対応に差が出る仕組みを、臨床心理学者アルバート・エリスは「ABC理論」でうまく説明しています。ABCとは、次の3つを意味します。

  • A(Activating Event)=出来事
  • B(Belief)=信念、思い込み、自分の中のルール
  • C(Consequence)=結果として表れた感情、症状、対応など

 私たちは何か自分の身に降りかかった出来事に対し、「よかった」とか「悔しい」とか感情を持ちます。ですから私たちは単純に、この場合の因果関係を(A)→(C)であるかのように思いがちです。ところが実際は、その感情(C)を引き起こしているのは、出来事(A)ではなく、その出来事をどういった信念(B)で受け止めたかによるというのがこの理論の肝です。すなわち、因果関係は(A)→(B)→(C)と表されます。

 アルバート・エリスは、このABC理論(より正確には「ABCDE理論」)を基に「論理療法」を創始しました。そのエッセンスは、「起こってしまった出来事を変えることはできないが、その解釈を変えることで人生を良い方向に進めていくことはできる」というものです。

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